High Tech High 訪問記第2話:中学校編
アメリカの新しい教育トレンドを知りたい!!という思いを抱き、我々 FutureEdu Tokyoの自主上映会で上映した “Most Likely to Succeed” の舞台でもある、High Tech High (HTH) を訪問しました。第2話は、HTH の中学校の1つであるHigh Tech Middle North County校 (HTMNC校) の見学レポートです。
HTH は、現在は幼稚園から高校まで13校と教育大学院を有しています。HTMNC 校は4校あるHTHの幼小一貫校で、HTHと同様にプロジェクト・ラーニング・メソッドを採用している公立のチャータースクール(特別認可学校)です。公立校なので授業料は無料で、進学を希望する生徒は、住民の地域属性を反映した形で抽選となります。一度入学すると、その後は高校まで内部進学できます。
小学校をのんびりと見学をしたあと、隣接する敷地にある中学校へ歩いて移動しました。中学校の見学ツアーの開始時間を知らされていなかったのですが、私たちはきっと1時間近く遅れてしまっていたのではないかと思います。到着すると女子2名と、男子1名のツアーガイドが私たちを待っていました。男子生徒は私たちの訪問のために南カリフォルニアでジャケットにネクタイをきちんと締めていて、彼が誇りをもってツアーガイドをしていることと、ゲストへのおもてなしの心が伝わってきました。
アメリカの中高と言えば、長い廊下の壁に設置された生徒たちのロッカーが思い浮かびますが、HTMNC校の二階建ての校舎には、美術学校かと思うほどあちこちに生徒の作品が展示されていました。美術学校と異なるのは作品が作者の個性を追究するものではなく、プロジェクトの発表のためのコミュニケーション・メディアとして分かりやすい表現がされていることです。HTMNC校は2学期制です。毎年恒例のプロジェクトはなく、学年担当の先生が強化横断のチーム体制で新しいプロジェクトのテーマを考えます。半年間一つのテーマを掘り下げて、学期末にその集大成として様々なメディアを使ったアートワークが製作されます。
興味深いのは、科目が大雑把に Humanities と Math/Science と Artに分かれていること。そして Art だけがやけに細分化されていることです。特に Humanities という聞きなれない科目は国語と社会科では割り切れない、文学、歴史、哲学、倫理、地理、経済など幅広い人間活動の領域をカバーしていて、これからの学問のトレンドを考えるときの重要なキーワードだと思います。Art クラスは、コンピュータがならんだデジタルラボや、大きな機械がある工作室や、絵画室など素材に応じた教室があり力が入っていました。生徒は一学期に一つずつメディアの特性を学んでいくそうです。
中学から HTMNC 校へ進学した生徒は、「地元で小学時代の友達に会うとみな宿題が多くて大変そう。HTMNC 校には教科書も宿題も試験もないけれど、学ぶことがとても楽しいので学習が遅れている気はしない」と言っていました。別の生徒は「私の家は貧しいけれど、この学校に進学できて良い環境に恵まれたのできっと大学へ通えるようになると思う」と語っていました。中学生は自分の立ち位置を客観的に見られるようになるのですね。
私は今回の訪問を通じて、プロジェクト・ベース・ラーニング (PBL)が一番効果的なのは中学生ではないかと密かに思っています。小学生は具現的なことしか理解できませんが、中学生はより抽象的な思考が可能となります。プロジェクト学習で、今までは表面的にしか理解できず難しいと感じていた世界、自分では踏み入れなかっただろう領域に、与えられたテーマに沿って深く入って行き、それを自分の物として表現していくことは、中学生が自分の関心や、世界に目覚めるきっかけにピッタリの手法です。
HTMNC 校のキャンパスは一見するとアーティスティックですが、ともすれば生真面目で単調な作風には、いろいろな手法を試しながら世の中を理解しようとしている中学生の真摯な姿が見えます。多くの学校で校内に生徒の作品を飾っていますが、HTMNCでは生徒たちの知的好奇心や探究心が溢れ出てくる展示となっています。
サンディエゴ市は人口約130万人。さいたま市や川崎市ぐらいの大きさで、そこに HTH の中学校が4校あります。さいたま市には58の公立中学校がありますがもしもその6%がプロジェクト・ベース・ラーニング (PBL) の学校になったらどれぐらいの親が真剣に進学を検討するでしょうか。日本で導入が予定されているInternational Baccalaureate (通称 IB ) も PBL を取り入れています。今後日本でどのように展開されていくのか気になるところです。
日本の中学生の生活は、部活や、高校が義務教育ではないので受験勉強に翻弄されています。小学生の頃は沢山あった意識高い系の教育イベントも中学生を対象とするものは僅かです。即席の自由研究ではなく、中学生の知的好奇心を満たすような研究にじっくり取り組むには日本の中学生は忙しすぎます。中学生向けのプロジェクト・ベース・ラーニングを展開するにあたってはどうやって時間を確保するのかが最大の課題となるでしょう。学習した範囲を正確に覚えることか、それを自ら発展させ応用することか。日本社会は中学生にどのような成果を求めているのか考えさせられました。 (by Marie)
私の感想 (Emi)
一貫校でも小学校と中学校は全く雰囲気が違う場合が多いですが、HTH の場合は、一貫校でプロジェクト学習を行っているため、作品の完成度や複雑度はちがったものの、カルチャーとしては非常に両校で近いものを感じました。小中一貫校でも中学に行くといきなりテストモードであまり特徴がなくなる学校もあったりする中で、州全体統一テストはあくまで必要悪と考えている HTH にでは、小学校から高校の12年間における基本的なまなびのプロセスは共通しています。よって、内部進学生の進学上での違和感がないのだろうなという印象を受け一方、外部から入ってくる学生さんが HTH のカルチャーに早く馴染むためには、小学校からの持ち上がりのお子さんの存在はきっと大きいのだと感じました。
Googleでも海外の新規オフィスの立ち上げでは、本社のカルチャーを知る人を一定の割合必ず含有させることで、Googleらしいオフィスを作っていくと聞いたことがあります。一貫校のカルチャーを引き継ぐ上で内部生が担う役割は、学校の縦の繋がりと同じくらい大切なのでしょう。
また、HTH が注力している STEAM 教育(サイエンス、テクノロジー、エンジアリング、アート、数学)は理数系というイメージが強いですが、HTH の場合、表現方法としてアーティスティックな作品として発表する形も多く、STEM 教育だけを強制しているわけでもないので、全員が理工系という印象は受けませんでした。実際卒業生も、STEM 系の専攻をする学生は34% とのこと。 全米平均 17% の倍ではありますが、我々が話をした学生でも、HTH に行ったことで、自分の強みは書くことだとわかったなど、プロジェクトの共同作業を通じて、自己の強みを再認識できたということが印象的でした。
ベースラインとしてのテクノロジーを使う力はどの分野に進んだとしても必須なのがこれからの時代。そういう意味では、暗記事項は全て習っていないかもしれないが、ベースラインとして、テクノロジーも使いながら、考えてつくってというループを何度も繰り返し、試行錯誤しながらアーティスティックにアウトプットをしていく、というまなびは、何歳からでも始められるし、このプロセスが自然にできる子供が大きくなったときには非常に頼もしいな存在になることかと思います。
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