聖心女子大学のグローバル共生研究所が主催する、ファストファッション業界の急成長がもたらす労働環境や地球への歪みを描いたドキュメンタリー作品、「The True Cost」の上映会に参加させて頂きました。企業経営における大きなコストは設備投資と人件費ですが、自由貿易、輸送インフラ、サプライチェーンの技術などが急速に発展することで、ユニクロ、H&M や Zara などのグローバル企業が、自ら設備投資と人件費を固定費として抱えることなく、最も価格競争力の高い国に発注することができるようになりました。そこで生まれたのが、「ファストファッション」という、超短期の商品サイクルで、低価格のオシャレな商品を、最適な在庫量で世界中に販売するという、従来型のプレタポルテの概念を、価格や商品サイクルなどで圧倒するビジネスです。
特にアメリカに行くと、どうやってこの商品がこの値段で買えるのか?と思うような洋服が数多くありますが、その謎と、ファストファッションの台頭が生み出した課題について、今まであまり深く考えてはいませんでした。ビジネススクール時代に、グローバル企業(例えば、SONY 対 Phillipps といった家電メイカーの競争)についてのケーススタディは数多く勉強しましたが、この作品のように、ファストファッション業界が生み出した様々な分野に及ぶ課題を紐解き、視聴者に、地球の一員として、そして消費者としてどう捉えていくべきかを考えさえる授業は受けた事がなく、一度社会に出ると、食べ物については安全性や生産地について想いを馳せる機会も多いものの、ファッションについては、身につけるものでありながらも、旅先など特別な状況で無い限り、その安全性や、その洋服の裏にある生産者の物語に注目することは非常に少なかったといえます。
本作品では、下請け先となっているファストファッションの製造現場で続発している事故や、劣悪な労働環境のルポや、工場主の考え方、そしてファストファッションの消費が引き起こす、原料の綿花生産側での課題、大量のゴミ問題、消費奨励文化が誘発する不幸など、様々な側面から課題を浮き彫りにしています。資本主義の原理では、それぞれの企業が、自らの利益を最大化することに邁進するのですが、狭小的なその目標設定が、地球やサプライチェーンを含めた労働者の人生にもたらしている貧困や危険など、”True Cost (真のコスト)"を考えるように促しています。局所的に考えるだけでなく、全体性(ホリスティック)な視点を持つ大切さを痛感する作品です。
まず現状を知ることで、それぞれの人なりのアクションを考える作品という点では、FutureEdu が上映活動をサポートしている Most Likely to Succeed とも似ているのですが、 この作品は、ファッションという誰にでも身近なトピックから、資本主義の限界に気付き、今後のあるべき姿を考えるにあたってとても良い作品だと思います。特に、これからの社会を担っていく高校生や大学生には、多くの学びや探求のキッカケが詰まっているので、今回も大学での上映会でしたが、高校の探求学習や大学のゼミなどでも取り上げて頂きたい作品ですし、家庭で話し合う素材としても良い作品だと思います。(ただ、事故の現場などで目を覆いたくなるシーンも少しありますので、一度自ら鑑賞されてから、大勢で観ることをお勧めします)
Youtube Movie にて300円でレンタルできるそうです。我が家の10児も同行しましたが、事故現場の映像のためだと思いますが、PG-13となっています。小学生以下の鑑賞は、ご家庭にてご判断ください。