熱中症が心配な夏休みこそ家で読書に限ります。財布に優しい、時間を有効に使える、楽しみながら成績がぐんぐんよくなる、家の中で静かに過ごせる...と、言うことなしです。文部科学省も活字に親しむ子は全国学力テストで高得点という調査結果を発表しています。人工知能(AI) が仕事を奪う時代にも、読書は鉄板です。夏休みの推薦図書は沢山出回っているけれど、そもそもどうやったら本を読んでくれるの? 家にいるとテレビやゲームがないと持たないというご家庭向けに、学童保育「環優舎」で成果をあげている本好きの子どもを育てるコツと図書リストを公開します。
読書の前に確認しておきたい事があります。まず、子どもの視力はあっていますか? 遠視の子どもは焦点が合わないので本を読むのが苦手だったりします。ごく稀にディスレクシアの場合もあります。
つぎに、テレビやゲームの時間を守れていますか? 子どもに自制心がない場合、責任ある親がすべきことは、デバイスの撤去か管理のどちらか一択です。デバイスの撤去は手っ取り早く、管理は面倒です。もしも管理をすると決めたら子どもが約束を守れなかった場合は子どものせいにせずに、親の管理不行き届きと心得て都度管理状態を改善せねばなりません。
さて、視力と自由な時間を確保できたらいよいよ読書習慣をつけることに取り組みます。時間がたっぷりある夏休みは新しい習慣をつけるのによい機会です。食事の前、寝る前など毎日決まった時間2-30分ほどを読書時間にします。外出のときも忘れずに本を持たせるとよいです。
まず、子どもがどれぐらい文章を読めるのかを把握しましょう。国語や社会、理科等の教科書を音読させます。たどたどしくしか読めなかったり、書いてない言葉に勝手に言い換えて読んでいる場合は話しの流れがスムーズに頭に入ってこないので本を好きになれないのは当たり前です。また、スラスラと読めずによくつかえたり、区切りや抑揚がおかしな場合は言葉や文章の意味を理解していない可能性があります。漢字がほとんど読めない場合も、話の流れがきちんと分からないのでやはり読書を楽しめません。このような子どもは、下の学年の音読用の副教材から始めて音読をやりなおしたり、少し遡ったところから漢字学習をするなどして、この夏休みはまずは文章をスラスラ読めるようになることを目標に取り組むとよいです。音読や漢字の学習については本題からそれるので本稿では触れません。
文章をスラスラを読めるのにあまり読書をしない子どもが本稿のターゲットです。読書をしない理由は単純に本がつまらないからです。なぜ本がつまらないのか?それはつまらない本を選んでいるからにほかなりません。本を読まなくても漫画は読む、漫画を禁止されたら本を読むよりは何もしないでいることを選ぶ、という子は沢山います。何もしないでいるよりも本を読むほうがつまらないとはいったいどういうことでしょう?
出版部数が減ったとはいえ、日本は依然として出版天国です。図書館の膨大な本の中から自分にピッタリの本を選ぶのは難しいことです。小さな子は表紙や、興味のある分野のタイトルに惹かれて本を選びがちですが、それが自分の知識レベルにあった内容とは限りません。簡単すぎても難しすぎてもつまらない本になってしまいます。そういうことが続くと本を読まなくなってしまいます。読書好きの子どもたちは自分にあった面白い本を選ぶのが上手なのです。「子どもが自分で面白い本を選べる」ように支援をしてあげると本好きに育ちます。
難しそうな本を手に取るのは怖い
子どもの本はざっくりと1)乳幼児向け絵本、2)子どもの絵本、3)幼年童話、4)児童文学に大別できます。子どもむけの絵本にはほとんど漢字が使われていません。一部の絵本は小さな子どもに向かない、文字が多く、話が難解なものもありますので注意します。童話は文字が大きい70ページ程の本で、すべてのページに挿絵があり、3年生までの漢字にはルビがふってあります。児童文学は150ページから250ページぐらいで、ときどき挿絵があり、たまにルビがふってあります。
成長に応じて次々とレベルアップできるといいのですが、難解な本に挑戦するのは勇気がいるものです。大人も高度な専門書やあまりにも難解な小説には易々と手を出しません。子どもも同じです。絵が少なくて、文字が小さな本を読むのは怖いのです。本が苦手な子の多くは簡単な本ばかりを選んで読んでいます。高学年になっても低学年向けの童話や絵本ばかりを読んでいるから、内容が幼稚でつまらなくて本を読まないのです。かといって今まで読んだこともないような活字ばかりの本は自分には読める気が全くしないのです。そこで子どもの成長の要所、要所に気を配り、次のステップの本を読めるように促してあげることがとても大切になります。
今日は主に子どもが自発的に次のステップの本を手に取るきっかけになりそうな本を選びました。次のステップに進めずにいたら意識的にここで紹介するような本を勧めてみるとよいと思います。各ステップごとに年齢の幅を持たせて選書していますので下記からちょうど良い本を選んだら、しばらくはそれと同等レベルの本を続けて読むようにするとしっかりとした読書力と習慣がついていきます。新しいレベルの本を読めるようになったら最初の何冊かは、同等レベルの本で子どもがグイグイ引き込まれる名作を紹介して、「面白い! 完読できた!」という自信をつけさせてあげましょう。徐々に面白そうな本を自分で見つけられるようになります。図書館の新しい本や期間限定のテーマ別の本のコーナーを見たり、図書館司書に相談したり、本好きな友達におススメの本を聞いたり、子ども新聞や子ども向けの雑誌などの書評にも面白そうな本がいろいろと紹介されているので活用するとよいです。
ステップ1 本を手に取る
まだ字が読めない小さな子どものうちから本に親しんでもらうには、本の楽しみ方を教えてあげねばなりません。テレビとちがって絵本は動かないので、絵本を能動的に楽しむコツを子どもに示します。大人に読んでもらうのも楽しいし、一人で眺めていても楽しいお気に入りの絵本は手許に置いておくとよいです。
・きんぎょがにげた
・バムとケロのにちようび
・100かいだてのいえ
・ふしぎなえ
・ポケモンの図鑑
・妖怪最強王図鑑など
・魔女図鑑―魔女になるための11のレッスン
・「もしも?」の図鑑シリーズ
ステップ2 ひらがなが読めるようになったら
文字に興味を持ち始めたら...平仮名カードを使って毎週5文字ずつひらがなの読み方を教えてあげましょう。3ヶ月ほどして平仮名をすべて読めるようになったら、まだ集中力が短いので短文で、ひらがなだけで書かれた子どもが一人で読み切れる絵本を何冊か用意します。濁音や吃音、カタカナがなるべく入っていない本が良いです。子どもは一人で本を読める自分をとても誇らしく思います。最初の数冊は、購入して家で何度も読めるようにします。自分はひらがなの本なら何でも読める"ということを子どもが自覚すると、自分に適切な本を選べるようになります。いろいろな本を乱読するようになったら図書館を活用します。"
・わたし ほんがよめるの
ブルーナの絵本はひらがなだけで短いので、ひらがなを読み始めたおこさんにピッタリです。ミッフィーの「はじめてであうかるた」もおすすめです。このかるたはロングセラーだったのにそろそろ絶版の兆し...。少子化・活字離れのせい?
・あっちゃんあがつく たべものあいうえお
ひらがなより言葉のリズムを先に覚えてしまう子もいます。厚みがあって読み応えがある本なので、全部読めることが自信になります。
・あいうえおうさま
幼年童話のような装丁なので、ステップアップの準備にも。拾い読みだからこそ完読したときの達成感は殊更です。
・早ね早おき朝5分ドリル おんどく・あんしょう
絵本ではありませんが、ゆっくり拾い読みが出来るようになったら毎日3回ずつ読ませます。最初は拾い読みでokです。ある程度読めるようになったら意味を教えてあげるとリズムよく読めるようになります。スラスラ暗誦できるようになったら次のページに進みます。
ステップ3 童話にチャレンジ
早い子は年長で、ゆっくりな子も2年生ごろまでには、ひらがな絵本から幼年童話への移行を目指したいものです。カラフルで大きく美しい絵本からところどころ白黒ページで、文字が多く、漢字もまじった幼年童話を手に取るのは勇気がいります。幼年童話の漢字にはルビがふってあるので、ひらがなを知っていれば大丈夫です。「ルビがふってあれば漢字の本も読めるんだ!」という自信を与えてあげてください。絵本はもう読まないけれど教科書以外は活字離れが著しい子どもや、漫画か図鑑ばかり読んでいる子どもには絵本以上童話未満の「かいけつゾロリ」シリーズがおすすめです。幼年童話は短く何度も繰り返し読むような内容ではありませんので図書館を活用した多読がよいです。「ルビがついてれば読める」と分かっていれば文字が大きな幼年童話から、徐々に文字が小さなものを自然に選んでいきます。
まずはともかくフォントが大きな幼年童話
・はれときどきぶた シリーズ
・かいけつゾロリ シリーズ
・へんてこもり シリーズ
・ルルとララ シリーズ
・エルマーの冒険 シリーズ
本が苦手な子はどさっと本を持ってこられると驚きます。まずは1冊だけ用意して、気に入ったら同じシリーズの本をもう1冊、さらにもう1冊、もっと読みたくなったら何冊もまとめて借りるとよいです。幼年童話はここに紹介した以外にも、1ねん1くみ1ばん シリーズ、3年1組ものがたり、マジックツリーハウスなどシリーズ化されているものが沢山ありますので、お気に入りの1冊を見つけて突破口にして一気に読書習慣をつけたいところです。
ステップ4 児童文学に親しむ
幼年童話から児童文学への移行は一番大きなステップです。文字の小ささもさることながら一番の課題は時間。30分もあれば読み切れる幼年童話と異なり、児童文学書はしおりがついているものも多く一気に読み切るのが難しいのです。話の展開も複雑になるのである程度まとまった時間がないとなかなか最初の設定の部分から先に進めません。本好きな子は本を持ち歩いて隙間時間に読みますが、あまり本を読まない子には高いハードルです。しかし本当に本が面白くなるのはこのレベルからです。どんどんページをめくりたくなるような本を薦めてあげましょう。このレベルの本が読めるようになると子どもはどんな小説でも読める自信がつきます。本が好きになってきたら暗い部屋で徹夜して本を読み切ったりすることもあるので寝不足や視力が落ちないよう気を付けてあげてください。
今までは本の挿絵も楽しんでいた子どもは、挿絵がほとんどない本を初めて読むときは気後れしています。もしも一人で読み始められないときは最初の一章を声に出して読んであげ、面白くなってきたところで1人で読ませるようにします。その際に「え~、可哀想。これからどうなっちゃうのかな?」「こういう子いるよね?」など気持ちを移入できるような言葉がけをしながら読みます。一人で読み始めたらときどき「あの話、あのあとどうなった?」「え~、それはびっくり!」などと軽く声がけをすると頑張って読めます。最初は毎日一章ずつでもかまいません。しばらくは一冊読み終わるごとに「面白かった?ちゃんと一人で読めるじゃない。次はどんなの読みたい?」と間髪入れずに本人が読み切れそうなすべらない本を厳選して薦めます。
・星新一ショートショートセレクション (理論社)
装丁は児童文学風なのに、中身は短編集なので忙しい子どもたちにも読みやすい。ヤングアダルト向けに厳選されたショートショートは、一話一話子どもたちの期待を裏切らないのであっという間に読み終わり、次巻にも手が伸びます。全巻読み終わる頃には、このサイズの本やフォントに慣れ、またテレビやゲームとは違う本の知的な楽しみ方を知ってしまっているはずです。
・ジュニア空想科学読本 (角川つばさ文庫)
星新一のユーモアがまだわからない子どもを文庫本サイズの本に慣れさせるのに良いシリーズです。
・ピノッキオの冒険 (岩波少年文庫)
「今更ピノッキオって思うでしょ? でもピノッキオって信じられないぐらい悪い子なんだよ。みんなが知っているピノッキオと全然違うから。超~悪い子だから読んでみて」と薦めます。原作のピノッキオはガチの不良なので、こんなことが許されるのかとフィクションの世界の広さに驚くと思います。児童文学を読むきっかけに。
高学年の子どもには文庫本を読み始めるきっかけは作ってあげられますが、個性が多様化してくるので自分で選んだ本でないとなかなか読んでもらえません。岩波少年文庫、角川つばさ文庫、講談社青い鳥文庫、新潮文庫などから出ている時代を経て現代にも受け継がれている世界や日本の児童文学の名作はどれを読んでも外れがないので好きな本を子ども自身に選ばせて読ませるとよいです。ミステリー、冒険、悲しい話、愉快な話、歴史小説など名作を一通り読んだら、中学受験によく出る最近の作家さんの作品に誘導する手もあります。中学受験を意識しなくてよいのならフィクションではありませんが岩波ジュニア新書を読めるようになるのは一つの目標です。段々と反抗期に入るので自分が好きなジャンルの本しか読まなくなるかもしれませんが子どもが自分で好きな本を見つけてきて読書するようになったら、乾杯をして、検閲をせずに子どもの成長を見守りましょう。
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Written by 吉川まりえ