「白馬インターナショナルスクール(HIS)の魅力とは?」シリーズの4回目です。1回目、2回目、3回目に続き、HISの地域との交流そしてこれからの将来の教育ビジョンについてご紹介します。
1)地域との繋がり・寮生活について
編集部:HISでは地域との繋がりも大切にされていらっしゃるかと思いますがどのような取り組みをされていますか?
草本さん:例えば、1学期は「ヒューマンコネクション」がテーマでした。スクールがある白馬岩岳地区で地元の人たちとどのようにコミュニティを創っていけるのかという点で、生徒たちからのアイデアで学期末にHISでフェスティバルを開催することにしました。岩岳地区の方々をご招待してお祭りを企画しました。射的、料理など生徒たちがアクティビティのアイデアを出しあって、準備・企画から実施までを主体的に行いました。その際に、例えば自然に配慮したキャンドルを作りたいという企画がありました。その活動もサイエンスの先生と一緒に、科学的な観点から制作を行っており、このように一つ一つの活動も学習に基づいています。
編集部:地域との繋がりという観点は、生徒さん達はその後もどのようなコミュニケーションを取っていらっしゃるのでしょうか?
堀井さん:HISでは、生徒たちを「子ども」ではなく大人と同じ一人の人間として平等に接しています。例えば、スクールでは、広報については、広報担当者という職員がいるのではなく、生徒が広報を担当しています。何かイベントがある時にPR内容を作成し、地元の新聞社へのアプローチなども生徒が自ら企画して、行動をしています。また、地域の集会でもスクールの取り組みやお願い、案内なども、職員が行うのではなく、生徒達が主体的に考えて発表をします。その際に、実際の地域コミュニティでの場になりますので、どのような話し方、伝え方をすれば、地域の大人の方に話が伝わるのか、聞いてもらえるのか、コミュニケーションをどういう形で行えば良いのか?を生徒達が自ら考えていきます。一人一人が生徒たちの個性にあった役割を果たしています。
また、地元の白馬中学校で、生徒たちが授業をさせていただくこともあります。PBLをどう進めるのかや実践の仕方など、生徒たちが日々HISでの学びを、どのように地元の中学生と交流することで伝えていくかなども、生徒たちが主体的に考え、実行しています。生徒たちは、自分たちが考え、アプトプットしたことが、地域にも貢献できるという社会との繋がりを日々実践して行っています。
編集部:HISはほとんどの生徒さんが寮生活になるかと思いますが、どのように過ごされていますか?
草本さん:現在、生徒のうちの8割が寮生活をしています。寮生活を通じて、生徒と先生が人と人との関係性を構築することができます。また上記の通り、白馬の地元コミュニティとの関係を深めることもでき、まさに生徒と先生とコミュニティが一緒に人間関係を構築することができる場になっています。
寮長の先生だけではなく、スクールの先生が交代で週末に生徒と一緒に過ごしています。先生が日々の生活の様子も把握することで、より生徒たちも安心して過ごせる環境になっています。また、長期休みの間は寮は基本的にクローズをしています。保護者とのコミュニケーションの面では、オンラインで1ヶ月に1回程度保護者会も行っています。
編集部:ちなみに、ボーディングスクール(寮制の学校)に向いているのとそうではないお子さんはいらっしゃいますか?
草本さん:まず、ご本人(生徒)がそのボーディイングスクールに行きたいと思えるかどうか。それが本当に大切だと思います。ご本人が意志を持って来たいと思ってもらえれば、スクール側で受け入れることができます。HISでは、コンフリクトが起きた時にどう解消していくかなどクリアリングメソッドや、集団生活におけるコミュニケーションの面はまさにクリス先生が得意としている分野です。思春期の中学生の心理的な成長や変化をSELの視点から取り入れていますので、本人に意思があれば安心して通えると思います。
2)卒業生の進路や進学について
編集部:卒業生の進路や進学について現時点ではどのようなお考えをお持ちですか?
草本さん:先々、HISの多様性はさらに広がっていくと思っています。例えば、卒業の時期になれば、米国のアイビーリーグをはじめとした海外進学やその入試準備などのサポートも必要となりますし、また、土地柄から農業に関連した方向性であったり、自然環境に関係することであったり、生徒の特性にあった形で、サポートしていきたいと思っています。
そもそも、サマースクールを実施していた時期から、生徒自身が自分が何者なのか?という自己探究の問いに応えていきたいと思ってきましたので、生徒たちが考える将来の進路を見定めて、サポートをしていきます。また、進路指導に関しては、専門家としてカレッジカウンセラーも将来的には採用予定です。
3)多様性の観点と奨学金について
編集部:多様性という観点から奨学金などの制度についてはどのようにお考えでしょうか?
草本さん:奨学金は実はすでに運用は始まっています。原資はふるさと納税になっています。(現在は、ふるさとチョイスのみで実施)。理事でいらっしゃる東京大学湯浅教授からも、「開かれた学びの機会提供」について強くアドバイスをいただいております。スクールとしても、今後も多様性のある学校を目指して、奨学金の導入や多様性のある生徒さんの入学を行っていきます。世界中から生徒さんをお迎えしたいですし、そのためのホストファミリー制度なども検討しています。
またありがたいことに、積極的に学校づくりに参画して下さる保護者の方も多く、学校の運営について、ファンディング委員会を創設して下さったり、企業とのネットワーク作りをご提案いただいたりなどプロボノとして活動して下さっています。
5)将来のビジョンについて
編集部:将来のビジョンと他の学校にはない御校の強みについて教えてください
草本さん:まず、何よりもHISの強みは、この白馬というロケーションです。自然環境があり、雄大なアルプスに囲まれ、世界レベルのスキー場を有し、人口8500人という地域の経済地盤がしっかりとしているエリアです。また、農業も盛んで、環境への意識を高められる土台があります。
世界中から生徒を集めるスイスのボーディングスクールは、スクールがあくまでもメインで、地域コミュニティとの交流などはあまりなく、スクールとして独立しているのですが、白馬はスクールが地域コミュニティと一体となって成長していける地域の地盤があります。
堀井さん:地域コミュニティに関してですが、HISでは、ご紹介した通り地域の方との交流や、地元自治会会合への参加、地元の中学校との交流やお祭りの開催などを通じて生徒たちと白馬という土地で実際に対面での意見交換を活発に行っています。中学1年生・2年生の生徒たちが地元自治会の方達と直接意見交換をできたり、お話を聞けるといった、実社会コミュニティとの交流を続けていけるのは、これも、HISならではの取り組みですし、生徒を含めて、自分たちで学校を創り続けるという考えのもとに、運営側も、先生も、生徒も主体的に行動をしています。
HISは実際に生徒たちが地元コミュニティと、責任と職務を持って主体的に関わり続け、常に進化・成長を続けるスクールだと思っています。
草本さん:ビジョンについては、ピーター・センゲ氏(MIT経営大学院上級講師)の『学習する学校』にもあるように、学校自身が成長を止めず、学び続けること、進化し続けられる学校でありたいと思っています。まさに持続可能な未来社会を構築できる学校を目指しています。100年、200年続く学校、そしてその都度社会の変化にきちんと対応して成長し続ける学校でありたいです。
また、クリス校長との話の中で、白馬で教育フォーラムをやろうという話になっていて、2023年3月に白馬で教育フォーラムを開催しました。グリーンスクールをはじめ、世界でイノベーティブな取り組みを実施されている教育者の先生方を世界からお呼びして、教育はどうあるべきか?のワークショップや提言活動を行いました。まずは小さなスタートですが、HISから新しい教育の形を発信していきたいと思っていますし、教育フォーラムも、教育界のダボス会議となれるように、新しい教育の形を創出していきます。
<編集後記>
今回、実際にHISを2日間ほど見学させていただき、また創業者の草本さん、事務局長の堀井先生にインタビューをさせていただく機会を得ました。また、実際に世界中のインターナショナルスクールや教育機関からいらした先生からお話を伺う機会や、実際の授業やワークショップの様子も拝見し、HISは今は白馬インターナショナスクールには、PBLをすでに他校で数多く実践されてきた先生方が多く在籍しているため、次のタームへの流れも意識し、必要な知識やスキルを生徒たちにとってやりがいがある形で構築できるようにとカリキュラムを作っています。
先生方は、生徒が1年間を通して何を学ぶかという大きな指針をまず策定し、その中で一人一人が今学ぶべき知識や学習、スキルなどのポイントをベースにPBLで実施していくという形を創っています。理想とする新しい学校の形を立ち上げるスタートアップの時期ではありますが、生み出された新時代の教育の形は世界に展開されていく未来を感じました。
保護者の立場からすると、とても革新的な取り組みに魅力を感じられる一方、長野県白馬という遠方の立地で、ボーディングスクールという形態に、心配される方もいらっしゃるかもしれません。そのような方には実際にHISを訪れることをお勧めします。なぜなら、長野県白馬という雄大な自然環境のもと、多彩才能溢れる先生方とプロジェクトを通じて試行錯誤できる面白さを、多感で刻々と成長を遂げる思春期に経験できる魅力は「百聞は一見にしかず」だからです。
コントリビューター
島田 敦子 | Atsuko Shimada
教育関連企業、自動車メーカー、IT企業でのマーケティング職を経て、米系機関に勤務。現在はIT業界に関連したリサーチや、ビジネスコンサルなどに携わる。2004年頃からダイバーシティプロジェクトに参画したことをきっかけに、ワーキングマザーの取材やイベント活動などをプライベートで実施。妊娠・出産を機に次世代教育や、AI時代の教育に興味を持ち、さらに日本モンテッソーリ教育総合研究所にて0-3歳の教師養成通信教育講座を修了し資格取得。二児の母。 慶應義塾大学総合政策学部卒。