イベントレポート:「モンテッソーリ・レッジョエミリアを知り尽くした研究者が語る “誘導しない子育て”」

6月上旬にNagatachoGRIDで開催された、「誘導しない子育て」をテーマとした、島村華子先生による講演・ワークショップに参加をしてきました。島村先生は、オックスフォード大学で児童発達の修士、博士過程を修了し、現在カナダの大学にて幼児教育の教員養成をされており、モンテッソーリ 国際協会(AMI)の教員免許も取得して、カナダの現場で何年も教えたことのある幼児教育の研究者です。

教育学のプロの目線から語られる子育て論には、イベント開始前からとても注目が集まり、もともとは30名程度の少人数で実施予定のイベントがSNSなどで次々と広まり、最終的には10倍以上の400名近い参加者がオンライン、オフラインで参加し、facebookのイベントページには5,000を超える「いいね!」がついたそうです。ちなみに本イベントには乳幼児から成人したお子さんを持つ親御さんから教育関係の方まで幅広く出席をされていました。

話題を呼んだ、「モンテッソーリ・レッジョエミリアを知り尽くした研究者が語る、誘導しない子育て」の講演・ワークショップ。そのイベント内容について早速レポートしたいと思います。

写真左から、主催者の木村智浩さん、講師の島村華子先生、主催者のごうだあさえさん

写真左から、主催者の木村智浩さん、講師の島村華子先生、主催者のごうだあさえさん

まず、今回のワークショップの目標はこちら!

<今日の学習目標>

1)自身の持つ子どもへのイメージ、見方を見直す

2)条件付きと無条件の子育ての違いを区別する

3)褒め方の種類の違いとその影響を認識し、子どもとつながる声がけ、質問方法を習得する

テーマ毎に詳しく紹介していきます。

子どもへのイメージ、皆さんはどう捉えていますか?

まず、「子どものイメージ」、と言われてどのように感じるでしょうか?大人が意識的にも無意識的にも思っている「子どもへのイメージ」が実際の大人の言動に出ると島村先生は話しています。まずは大人が自身の子どもへのイメージを改めて見直す前に、「子どもへのイメージ」をモンテッソーリ、レッジョエミリアアプローチの視点から見てみましょう。

<モンテッソーリ教育における子どものイメージ>

・子どもは独立した個人

・子どもは平和の根源

<レッジョエミリアの子どものイメージ>

・子どもは権利を持った市民(大人と同等)

・子どもは研究者

例えばこういった、モンテッソーリやレッジョエミリアアプローチの観点から見た「子どものイメージ(子ども観・子供に対する考え方)」を中心に考えると、カリキュラムや教育理念、子育てのゴールはどのような形になるのでしょうか?

モンテッソーリの子どものイメージに基づいた見方。

・カリキュラム=個人に基づくプログラム

・教育理念=自立した人間を育てる

・子育てのゴール=自分でできる子に育てる

・親・先生の役割=助手役、ファシリテーター

・接し方・子育て方法=子どもの自立を支援する

モンテッソーリでは、子どもを自立した個人と捉え、先生や親は手取り足取り教えるのではなく、子どもの自立をサポートする立場になります。

出典:島村華子先生 「誘導しない子育て」プレゼン資料

出典:島村華子先生 「誘導しない子育て」プレゼン資料

そしてこちらが、レッジョエミリアアプローチに基づいた見方。

・カリキュラム=民主主義

・教育理念=民主的集団形成 

・子育てのゴール=社会に貢献できる子に育てる

・親・先生の役割=共同学習者

・接し方・子育て方法=子どもの表現に耳を傾ける(100の言葉)

レッジョエミリアの場合には、子どもは社会という集団を構成する一市民として尊重され、そして集団で対話してプロジェクトを実行いくことを重要視しており、共同体を意識したアプローチになります。

出典:島村華子先生 「誘導しない子育て」プレゼン資料

出典:島村華子先生 「誘導しない子育て」プレゼン資料

島村先生のお話によると、レッジョエミリアアプローチで育った子ども達のその後の調査*によると、大人になった時に、「投票率が高い」、「ボランティア活動に力を入れている」など市民性、社会への貢献度が高いことが証明されているそうです。

レッジョエミリアアプローについて知りたい方はこちらの記事もどうぞ。

世界最高峰の幼児教育の一つと言われる、レッジョ・アプローチとは?

*出典:

Evaluation of the Reggio Approach to Early Education

「子どもの見方」が一番のコアになる

実際にワークショップで出されたワークについてもご紹介したいと思います。ぜひご自宅でパートナーやご家族とご一緒に取り組まれてみると、新たな発見があるかもしれません。

<ワーク>

・あなたの子育て・教育の長期的なゴールは何ですか?(どんな人に育ってもらいたいですか?)

・子育て、教育のゴールと自分の子どもとの接し方に食い違いはありますか?

・あなたの子どもに対する本音のイメージは何でしょうか?見直すとしたらどのように変えたいですか

このワークでは、大人が掲げる理想と実際の行動や接し方に違いがいないかを自分自身で検証してみます。実際に違いがあったと気づくのが重要で、だからこそイメージに対してどう見直していったら良いかを考えていけますね!

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条件付き(誘導)と無条件の接し方、子育てとは?

日々の子育てにおいて、無条件で子どもの行動の良し悪しを判断せずに常に同じように愛情を注げているでしょうか?または、大人の期待通りに子どもが行動した時にだけ愛情を与えていないでしょうか?

実は、大人が期待した通りに動いた時だけ愛情を与えるのは「業績評価型(陽性強化)」と言われ、このアプローチは主に、動物などを訓練するときなどに使われる手法なのだそうです。言われたことをちゃんと実践した、大人の価値観による「良いこと」をした時にだけ褒める手法です。

例えば、

・毎晩絵本を読む約束をしてたのに、子どもがその日はあまり言うことを聞かず、夜は絵本を読むのをもうやめてしまった

と言うことなども条件付きの愛情の一例になります。

こう言った行動を大人が繰り返すとどうなるかと言うと、「子どもは大人(親)の言う通りに動かないと自分は愛してもらえない」と思ってしまうそうです!

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褒美と罰は表裏一体、実は同じ!

無条件の愛情とは、「贈り物」のようなもので、見返りを求めないこと。島村先生からは、「見返りを期待するお中元とは違いますよ!」と面白い例えも。さて、一方、条件付きの愛情とは、子どもが大人の思うようにしていたら愛情を注ぎ、そうでなければ罰してしまうと言うスタイル、実は褒めるのも罰を与えるのも子どもにとっては同じことなのです。どちらも与え続けないと効果がないと言うことが実証されているそうです。

さて、条件付き子育てはどのような影響があるのでしょうか?

子どもが大人(親)が望む行動をとる傾向が強い

・低いあるいは条件付きの自己評価(他者から褒めてもらわないと、自分を評価できない)

・自己中心になりやすい(自分の行動が相手にどう影響するかが想像できなくなる)

・大人(親)のへの憤り、親子関係の悪化

なかなかドキッとする様な内容ですよね。子どもには高い自己肯定感を持っていて欲しいと願いながら実は、子どもの自己評価を下げている言動を普段していないか、見直すチャンスかもしれません。

実際に大人自身も子どもの時を振り返ってみると、条件付きの扱いを受けた経験はありますか?例えば、「xxxをしないとxxxをもらえない」「女の子だから、男の子だから」と言われてきたりなど多くの大人が実は経験していることではないでしょうか。

一度、子どもと接する時に、それは条件付き?無条件?子どもの行動によって愛情を出したり出し惜しみしたりしていない?!を振り返ってみるのが大切かもしれません。

また、条件付きの愛情にならないためにも、子どもの年齢や発達を考慮すること、子どもの発達段階に合わないことは期待しないことも必要と言うお話がありました。意外に子どもの発達については知られていないことも多いのですが、例えば、2歳児に対して、友達と仲良く遊んで欲しい、おもちゃを順番に使って欲しい、ご飯を綺麗に食べて欲しいと望んでもそれは発達段階からしたら到底できないことなので、望むこと自体が発達を考慮していないことがあります。また、3歳児に静かに座っていて欲しい、良い子にしてて言うことを聞いて欲しいと思って期待するのもまたこれも難しいそうです。

私たち大人も子どもの発達を理解して、無理難題を子どもに押し付けていないか?それによって条件付きの愛情になっていないか?振り返ってみたいですね。

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褒め方には3種類ある

最後に島村先生から褒め方の種類とその違いについての説明がありました。実は褒め方には3種類あること、みなさんご存知でしょうか?

・人中心(見た目、才能、性格)

・おざなり(具体性欠如) 

・過程中心(努力、根気、戦略)

出典:島村華子先生 「誘導しない子育て」プレゼン資料

出典:島村華子先生 「誘導しない子育て」プレゼン資料

人中心の褒め方とは例えば「あなたは可愛いわね、頭が良いね」など。おざなりの褒め方は「すごいね!」など。実はつい使ってしまっているこう言ったワーディングですが、実は思わぬ影響が出ることが研究結果で実証されているそうです。

人中心、おざなり型の褒め方による影響

・モチベーション、楽しみの低下

・結果だけに集中する

・失敗を恐れる、努力をしなくなる

・他者からの認識、賞賛に依存する

・自己評価能力が低くなる

研究結果では、例えば「本読むのが上手だね」と言われ続けると結果だけに集中してしまい、本を読むこと自体が好きでなくなってしまうであったり、「頭がいいね」と褒められると、次も褒められたいと思い、次から簡単なタスクを選ぶようになると言ったことが証明されているそうです。

では実際にどの様な褒め方をすれば良いのでしょうか?それが「過程中心の褒め方」になります。

過程中心の褒め方の影響

・チャレンジ精神の増加

・点数よりも学ぶ過程に集中

・失敗を恐れない

・努力すればできるようになる

過程中心の褒め方にシフトすると、頑張ればできるようになる、努力をしたらできるかもしれないと子どもが思える様になり、プロセスに集中して励ますことが大切です。

より具体的なポイントを知りたい方も多いのではないでしょうか。島村先生からは褒め方のポイントのお話がありました。

ポイント

・見たままを具体的に描写する

・努力、根気、戦略(やり方・違う手法)に集中してコメントする(=励まし)

・必要がないならコメントしないでいい

・最上級の形容詞を使って自由回答の質問をする(=一番、もっとも)

見たままを具体的に描写するのは、「色々な色があるね」や「色々な形があるね」など大人の判断を入れない、あくまでも客観的に見た事実を言葉にします。また、大人はついつい、自分がどう思ったのかを話そうとしますが、実際のところ、大人がどう思ったのかはわざわざ言わなくても良いそう。

大人自身が自分の考えにフォーカスするのではなく、子どもに質問して子どもの気持ちを聞いてみるのがポイント。

例えば、

「今日この絵の中で一番気になったところはなに?」

「一番大変だったのはどこだった?」

「一番面白かったところはどこだった?」

など、早速ご家庭で実践できる声かけなどが紹介されていました。褒め方のポイント、ご家庭でも取り入れてみてはいかがでしょうか。

<補足>

・後日島村先生に「外発的動機付けの影響」について改めてお伺いしてみました。その結果、外発的動機付けによる学習意欲の向上効果についての研究なども過去様々発表されていますが、研究の中には、条件付きな褒め言葉や報酬による外的動機付けは、短期的には効果があるかもしれませんが、内発的な動機付けによる学習に比べると、記憶力の持続性や学習意欲の継続性に影響があるそうで、条件付きではない褒め方、コミュニケーションの重要性が改めて見直されています。

まとめ

今回の島村先生の講演、ワークショップのお話をまとめると、

・自己の子どもに対するイメージが大人の言動に大きな影響を持つ

・条件付きの子育ては子どもの行動次第で愛情を調整することになり、思わぬ影響を与える。無条件の愛情、接し方を意識する

・褒め方には3種類あり、過程中心の褒め方を意識する

と言ったお話が中心でした。各ご家庭で実践できることがとても多く、出席された沢山の方々も真剣に島村先生のお話に耳を傾けたり、グループ内での活発なシェアタイムがとても印象的でした。

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イベント写真 撮影:杉本雅彦


最後に、島村先生がオススメされていた文献をご紹介します。全て英語の文献のためハードルが高い部分もあるかもしれませんが、ご参考まで。

本:

Unconditional Parenting: Moving from Rewards and Punishments to Love and Reason

研究:

レッジョ・エミリアアプローチについてのリサーチ (英語)

Evaluation of the Reggio Approach to Early Education

人中心vs 過程中心の褒め方に関する有名なリサーチ (英語)

Praise  for Intelligence  Can Undermine Children's Motivation  and Performance

今回のワークショップを主催いただいた、GaiaxCommunityについて

■GaiaxCommunity / Living Matters

NagatachoGRiDは、人と人とのつながりを通して社会を取り巻く問題の解決を目指すスタートアップスタジオのガイアックスが、多種多様な分野の人たちが 結びつき、お互いに刺激しあい、 ともに行動するためのコミュニティビルとしてGRiDをオープンしました。

今回はそこで生まれたLiving Mattersという人生において重要なことをテーマにダイアログランチを行うメンバーが主導。https://www.gaiax.co.jp/community/

著者プロフィール

島田 敦子

教育関連企業、自動車メーカー、IT企業でのマーケティング職を経て、米系機関に勤務。現在はIT業界に関連したリサーチや、ビジネスコンサルなどに携わる。2004年頃からダイバーシティプロジェクトに参画したことをきっかけに、ワーキングマザーの取材やイベント活動などをプライベートで実施。妊娠・出産を機に次世代教育や、AI時代の教育に興味を持つようになり、働きながら0-3歳のモンテッソーリ講師資格を取得。フルタイムで働く二児の母。

慶應義塾大学総合政策学部卒