最近、友人から「アドバイザリーとは何か」「アドバイザリーとは何ができるか」という質問を受けました。この2つの定義は、何と世界を隔てたものでしょうか。
アドバイザリーとは、アメリカの一般的な中学・高校で行われているもので、生徒がおしゃべりをしたり、宿題をしたり、先生からのお知らせがあったりと、ゆるやかに管理されている教室のことです。多くの人にとっては、無駄な時間のように感じられますが、歓迎すべき息抜きでもあります。
では、それがアドバイザリーの可能性なのかというと、それは全く別の話です。私にとっては、教育で最も期待ができる学びの場の1つです。
驚くべきことに、学校では1分1秒を大切にしなければならないというプレッシャーがあるにもかかわらず、アドバイザリーは今も健在なのは、人々がアドバイザリーが何か大切なものだと感じているからです。アドバイザリーは、生徒が先生とのつながりを感じたり、生徒が充実した学校生活を送るために役立つ、より深いスキルを学んだりする場になり得ると感じているのです。しかし、そのための時間やトレーニング、ツールはまだないかもしれません。しかし、たとえその願いがまだ現実のものとなっていなくても、アドバイザリーの時間が設けられているということは、希望の扉なのです。すでに時間が確保され、多くの人がそれをうまく利用しようと考えていることは、理想的な出発点です。
アドバイザリーは特別な場所になるかもしれないし、なるべきだという教育者の直感は正しいと思います。ある程度のトレーニングと、実践して試行錯誤する忍耐力、そして、指導者のサポートが、アドバイザリーの重要性を言葉と行動で示すためには必要です。
では、アドバイザリーにはどの様な可能性があるのでしょうか?
私が校長をつとめた学校や、この方向に進んでいる他の学校で見てきたものを紹介します。まず基本から始めましょう。アドバイザリーとは、一人の教員または学校職員(アドバイザー)に率いられた15人以下の固定した生徒のグループです。通常一年以上にわたって少なくとも週一回のミーティングを行います。アドバイザーには,グループの運営方法に関するトレーニング,社会性と情動の学習のためのツール,準備のための時間,アイデアや課題を話し合える仲間である実践コミュニティへのアクセスなど,いくつかのサポートが提供されます。
これらの要素が整っていれば,アドバイザリーは優れた中学・高校の心臓部となるのです。アドバイザリーは、生徒が少なくとも一人の大人と強い信頼関係を感じられる場所となります。その結果、生徒の学校とのつながりが強まり、学業成績やメンタルヘルスに大きな影響を与えることが研究で明らかになっています。アドバイザリーは、生徒が最も安心して所属できるグループとなり、厄介な感情を共有したり、自分のアイデンティティを試したりすることができ、追い出されるリスクもありません。社会的、感情的な疑問を解消することができることで、学業やその他の成長に必要な集中力や能力が発揮されます。究極的には、アドバイザリーは,社会性と情動の知能を開発するために,学校生活の中で最高の時間となり得るのです。
社会性と情動の知能についての研究結果は明確に出ています。豊かな社会性と情動の知性を身につけることは、贅沢なことや特別なことではありません。一人一人の豊かな学びの旅や、幸せで有意義な人生を送るための基盤なのです。社会性と情動の学びは、学業成績の向上と心の健康につながり、その効果は大人になっても持続することが分かっています。昨年度のコロナ感染に起因して、あらゆる年齢層の多くの人々が深刻な不安とストレスを経験した状況を考えると、社会性と情動の知性の重要性はより明らかにったっと言えるでしょう。このような人生の側面を管理する能力が、成功と幸福の多くを決定するのです。正にこれが社会性と情動の知能です。
しかし,優れた社会性と情動の学習は,決められたカリキュラムや従来の教室での指導では実現しません。それにはグループ、つまりアドバイザリーが必要なのです。それはなぜでしょうか?
まず第一に,ほとんどの青少年は何よりも社交に対して高いモチベーションを持っており、グループはその社会的モチベーションを学びに活用できるのです。お互いへの強い好奇心と人に見られたいという欲求に動かされ、子どもたちはグループに最大限の関与をすることができます。
第二に、彼らは自分自身を理解するために、多様な経験を必要とします。グループでは、思春期の荒波、進化するアイデンティティー、葛藤などを一人一人がさまざまな方法で乗り越えようとしている様を知ることができます。
第三に,グループが安全になると,子どもたちはますます率直に話し合うようになり,グループのサポートを受けながら自分の課題に直面し,最も有用で適切だと思われるときに社会性と情動のツールを学ぶことができるようになります。これは、無味乾燥で、台本の様なカリキュラムとは正反対で、最も必要なときに役立つため、子ども達の記憶に残る、貴重な社会性と情動のツールとなります。
私がこの話題にいつも以上に情熱を感じているのは、先日SELアドバイザリー・ファシリテーションのトレーニングの共同リーダーを務め、中学・高校の教育者の素晴らしいグループにファシリテーションのスキルとSELツールを提供したところだからです。今後、この活動を拡大していく予定です(日本で開催する講座詳細はこちら/米国での活動の将来はこちら(英語))。優れたアドバイザリをリードするためのツールや知識は世の中に溢れています。これを読んでピンときた方は、ぜひ手に入れてみてください。すべての若者には、仲間と一緒に人生を理解するために、正直に話したり、深く聞いたりする安全な空間が与えられるべきなのです。
原文はこちら:https://www.chrisbalme.com/blog/what-advisory-could-be
クリス・バーム先生による、夏休みオンライン講座開催のお知らせ
子ども達が安心安全な環境で深い、探究的な学びに取り組める教室や授業づくりについて関心のある教育者の方に向けた3日間のワークショップを8月23日、24日、26日の3日間開催します。春に開催した同講座は、7割の参加者の方が、期待を上回った、期待を大きく上回ったと回答頂いている、理論的な裏づけをと実践がセットとなった人気講座です。社会性と情動の学び (SEL)、プロジェクト型学習 (PBL)、そしてアドバイザリー(学級運営)の要素が学べる貴重な機会です。またオンライン開催なので、全国どこからでも気軽に参加できるのも特徴です。
参加者の皆様の声を一部ご紹介:
「自分自身のアクションの輪郭が見えてきたので、やる気を加速させる良い機会になりました。」
「感覚的に考えていたことに対しての,理論の裏付けや,実践の裏付けが得られたことが大きかった。」
「各学びのモデルが単発ではなくすべてがつながっているということに単純にすごいと思った。また通訳を介してでの不安が少しありましたが、通訳が分かりやすくととてもよかった。」
“社会性、感情や認知スキルは生涯を通じて成長し、学校や職場、家庭やコミュニティでの成功に必須となっています。これらのスキルがあることで、社会に意味のある形で貢献ができるのです。”
アスペンインスティチュート社会性と情動の教育に関する2017年全国委員会
FutureEdu 代表竹村と、クリス・バーム先生による、夏休み特別対談企画のお知らせ
「探究的な学び」という言葉が話題になって久しくなりましたが、深い学びが生まれる教室や授業はどの様に育まれていくのでしょうか?サンフランシスコの先端私立中学のミレニアム・スクールの元校長、クリス・バーム先生と一緒に、深い学びが生まれる教室をどの様に育てていけるのかといったテーマでお話を伺います。参加者の皆様からの質問の時間も設けておりますので、SEL、PBL、対話的な学びといったテーマに関心のある教育者の皆様のご参加をお待ちしております!