1)はじめに
従来型の教育から、時代の変化と共に学校教育は変革期を迎えようとしています。しかしその一方で、社会全体として、学校全体のシステムそのものを変えるというアプローチに至るまでにはまだまだ時間がかかっています。そのような変革期において、既存の枠組みを超えて、新しいアプローチで教育を捉え直す学校が日本にも徐々に増えていることをご存じでしょうか?このシリーズでは、新しく日本に新設された革新的な存在である学校を取り上げます。
第一話は、2022年9月に開校した中高一貫ボーディングスクール、白馬インターナショナルスクール(以下HIS)を取材させていただきました。HISは、従来の日本における教育形態から進化をした学校です。社会にインパクトを起こす目的を持って生徒たちが活動することで、持続可能な社会に向けて、「自分(達)のアクションによって社会を変えることができる」と生徒たちが実感していけることに取り組んでいます。また未来の世界を見据えサスティナビリティをテーマにしたプロジェクト型学習 (Project Based Learning、略してPBL)、安心安全な環境で学びに没入するために重要な社会性と情動の学び (Social Emotional Learning 略してSEL)や、ダイナミックな自然環境の中で、自己理解、ライフスキルや人間関係構築力などを磨くことのできるアウトドア活動を3つの柱ににカリキュラムがデザインされています。
今回は、FutureEduの編集チームが、HISにお伺いし、代表理事草本朋子さん、理事の堀井章子さん、またガイド(HISでは先生ではなくガイドと呼ばれています)と呼ばれる多様な才能を持つ先生方に取材をさせていただきました。インタビュー編は4回シリーズでお届けいたします。
また、インタビュー編に登場される、代表理事の草本さんは、外資金融勤務、MBA留学や海外勤務を経て、その後旦那様と白馬村に移住されました。三人のお子様の子育てをされながら、白馬にインターナショナルスクール創設を決断され、創設準備を経て2022年に創業されたイノベーターです。
理事の堀井さんは、横浜創英中学・高等学校にて学校管理職を務められ、その後学園内に研究開発チームを創設し、新しい教育の探究や人材開発に長年取り組まれていらっしゃいました。HISの創設においてはアドミニストレーション全般を統括。現在は教育事業の立ち上げやLifelong Unlearning & Learning をテーマに学校や年齢などの枠組みに捉われない多様な視点からご活躍されています。
<HIS 概要と特徴>
2022年9月に開校。現在の生徒数は約20名(中学校1年生・2年生)*2022年11月時点
持続可能な社会を創り出せる人材の創出を目指し、サスティナビリティ教育を実践する長野県白馬村に設立された中高一貫のボーディングスクール
生徒は基本的に寮生活となり、授業は仮校舎で実施。現在校舎建設予定地にて、生徒さんと共に、新校舎建設プロジェクトを進行中
教育の特徴としては、1)PBL 2)SEL と3)アウトドアアクティビティが中心
校長は、FuturreEdu 主催の教員研修でも大変好評を得ている元米国ミレニアムスクールのクリス・バーム校長
世界・日本各地のインターナショナルスクールから参画し、国籍も5カ国に渡り、多彩な経験を持つ、ガイドと呼ばれる先生
学びの形、運営方法、日々の生活に至るまでガイド(先生)と生徒が平等にディスカッションできるタウンホールミーティング、生徒が安心して学校生活を送れるサポートとなるアドバイザリー、地域コミュニティとの交流を生徒が主体的に関わる取組などを実践
2)なぜ白馬の地にインターナショナルスクールを創設したいと思われたのですか?
編集部:今日は長野県白馬村を訪問させていただきました。北アルプスをはじめとした山々と雄大な自然に囲まれる、ここ白馬の地にインターナショナルスクールを創業されようと思われたのはどのような観点からでしょうか?
草本さん:長野県白馬村は、人口8,500人という村としては比較的大きな規模があり、また1998年に開催された冬季長野オリンピックではアルペンスキーやジャンプ競技などの舞台になったほど、北アルプスの自然に溢れながらもウィンタースポーツを代表とする歴史ある施設も多くあります。
また、何よりも白馬という自然豊かな場所に住んでいると、毎年の降雪量の変化や、桜のシーズン時期の変化など、気候変動の進行やサステナビリティの重要性を五感で感じることができます。
さらに白馬には多彩な才能をお持ちの方々にも恵まれています。観光だけではなく、アート、スポーツ、デザイン、自然環境、ビジネス、食やプログラミングなど白馬というコミュニティには、多彩な才能をもたれるクリティブな方々が多く、サマースクールの時からこんな企画をしてみたいと思った時に信頼してお願いできる方に巡り合えることも多いです。
そして行政の存在です。2019年に、白馬村役場の職員の方と私と二人で「白馬SDGs Lab」という白馬でSDGsに具体的に取り組む任意団体を立ち上げ、そこに参加してくれた白馬高校の高校生3名が持続可能性をテーマに気候変動について、「グローバル気候マーチ」を白馬村で企画をし、当日は100名を超える人達が集まりました。そういった取り組みをきっかけに白馬村では、2019年12月に「気候非常事態宣言」、2020年2月には「ゼロカーボンシティ宣言」をしており、2050年に二酸化炭素排出量を実質ゼロにすることを目指しています。このように、市民の声にフレキシブルに呼応していただける行政の環境があるというのも白馬にインターナショナルスクールを開設しようと思ったきっかけでもあります。
実際に開校して3ヶ月ですが、すでに地域の方々との交流を積極的に行っており、例えば生徒達の提案で地元の方をお呼びしてお祭りなども企画しました。その時にも、どのようなお祭りにするのかなど、先生がプロジェクトをリードするのではなく、生徒達が主体的に企画・運営をし、お祭りの実施にあたり、生徒達自らが代表として窓口となり、地元の町内会など普段生徒が接する大人とは異なる地元の方々と積極的に交流する機会もすでにあります。
編集部:実際に足を運び様々なお話をお伺いし、白馬という土地は、 トロント大学ビジネススクール教授 リチャード・フロリダ氏が提唱されている、「クリエイティブ・クラス」やその都市形成に非常に当てはまっているように感じています。大自然の素晴らしさ、地域に根ざしたコミュニティの存在と同時に、クリエイティブクラスが集まる場所だからこその価値が白馬にはあるように感じますね。
3)「サスティナビリティ」がHISの柱になっていらっしゃいますが、学校のプログラムではどのような取り組みをされていらっしゃいますか?
草本さん:サスティナビリティに関して、生徒達には、自分達で何ができるのか?を考えてもらうことを大切にしています。今、HISでは、数年後に建設する新校舎建設の取り組みがあり、生徒達と「サスティナブルな学校を創れるのか?」というテーマでプロジェクトに取り組んでいます。例えば、授業では森のエコシステムについての学びや持続可能性の観点からはどのような建物でまたどの種類のエネルギー源を使えば環境に良いのか?などを生徒達と真剣にディスカッションをしています。
また、寮の断熱改修を行ったのも、まずは全体のエネルギー量を減らすために自分達でできることからやってみよう、という視点から取り組みました。このように身近なところから大きな枠組みに至るまで生徒達と一緒に考えて進めています。議論に際しては、ガイド(先生)のライアンがシステム思考を取り入れ、サスティナビリティの観点から、HISとして、全体のエネルギー量を減らすためにはどのようなことができるのか?などのディスカッションを繰り返しました。
私自身も長年白馬に住んで感じるところですが、白馬はまさに気候変動のインパクトを、生徒たちが肌で感じることができる地域です。目の前に広がる自然を残していきたい、と生徒たちに心から感じて欲しいと願っています。さらに、ただ感情面で思うだけではなく、実際に自然を守るために自分達には何ができるのだろうか?という観点からどのようなアクションが起こせるのかといった小さな一歩から考えて、実行していける環境でもあります。そういった課題に向き合い、卒業までに生徒たちには試行錯誤をしていって欲しいと考えています。
例えば、白馬高校の3人の生徒のアクションで白馬村がサスティナビリティについて真剣に検討し自治体が動いたという事例が実際にあり、白馬村はゼロカーボンシティ宣言を行い、白馬としてどう実現できるのか?という議論が始まっています。誰かがアクションすることで、社会を変えることができる、社会にインパクトを生み出すことができる、そういった実感を生徒たちには持って、卒業していって欲しいです。
2回目では、HISの開校に至った背景や、先生方についてご紹介します。
コントリビューター
島田 敦子 | Atsuko Shimada
教育関連企業、自動車メーカー、IT企業でのマーケティング職を経て、米系機関に勤務。現在はIT業界に関連したリサーチや、ビジネスコンサルなどに携わる。2004年頃からダイバーシティプロジェクトに参画したことをきっかけに、ワーキングマザーの取材やイベント活動などをプライベートで実施。妊娠・出産を機に次世代教育や、AI時代の教育に興味を持ち、さらに日本モンテッソーリ教育総合研究所にて0-3歳の教師養成通信教育講座を修了し資格取得。二児の母。 慶應義塾大学総合政策学部卒