昨今企業や学校でも取り組みが急増している、持続可能な開発目標 (Sustainable Development Goals = SDGs) ですが、その中でもとりわけ危機感を持たなくてはいけない目標が13番の、「気候変動への具体的な対策を」です。おそらく昨今の水害や台風の多さからも、地球が変わってきていると感じられている方も多いのではないでしょうか?ただ、この目標の難点は、非常に大きいために、今ひとつ具体的なアクションを取りづらかったり、行動が結果につながることを感じづらい所だと思います。
夏にご紹介した「不都合な真実2」の映画もオススメですが、先日参加した Innovation City Forum にて、気候変動の課題を一気に身近に感じさせられるお二人に出会いました。お二人は全く異なる活動をされていますが、共通する点は、共感を生むアーティスティックな表現とテクノロジーを組み合わせることで、世界の難題に挑戦されているということです。
#1キャシー・ジェトニル=キジナー Kathy Jetñil-Kijiner: マーシャル諸島存続の危機を詩や映像で訴える活動家
人口5万3000人ほどのマーシャル諸島の大統領を母に持つキャシーさんは、アーティストとしての才能を駆使して、マーシャル諸島が気候変動による水没の危機に瀕していることを世界に訴えている活動家です。彼女の活動は、日本人であり地球人である大切さを教えてくれます。
彼女は最近までは、地球の温度の上昇を1.5度までに抑えることができれば、マーシャル諸島は水没せずに済むであろうという予測から、若者たちも巻き込んで、世界に1.5度について理解してもらう活動に注力されていました。ただ、今回の来日の前に、とある科学者から、1.5度の気温上昇に抑えることは不可能なので、このままだと水没するという前提で、地盤のかさ上げをするか、人口島を作ることを検討すべきだとアドバイスを受けられたそうです。
小国とはいえ、ふるさとに愛情を持つ気持ちはどの国も同じ。先祖から受け継がれてきた島々に住めなくなってしまうという事実に向き合うのは並大抵のことではありません。
先進国の産業排出などが主な原因だと考えられる気候変動の被害者は、原因を生み出していない太平洋の島々というやるせなさや怒りを、詩や動画というメディアを使って非常に前向きな共感を生み出すことに成功されています。私も彼女のスピーチを聞いて、何かできることはないかと心動いた一人でした。
問題が大きすぎると避けてしまのは人間の心情ですが、キャシーさんの動画を通じて彼女の活動を隣人に伝えてみる、国内の水害の被害地に寄付や支援をするなど、気候変動についての小さな一歩は我々日本人、いや地球人も踏み出せるのではないでしょうか?
公式サイト: https://www.kathyjetnilkijiner.com/
#2 ダーン・ローズガールデ Daan Roosegaarde: アートとテクノロジーの力で、社会課題に参画する敷居を下げているイノベーター
オランダは、国土全域がゼロメートル地帯ということもあり、非常に気候変動への関心が高い国です。数年後には、高速道路を走りながら電気自動車の充電が出来る事を目指しているなど、世界が注目する取り組みが数々と行われているそうです。
ダンさんは、本質の課題を掘り下げた後に、アートとテクノロジーの力を使ったソリューションを提示することで、一般市民が社会課題に積極的に関わるきっかけを数多く作られています。
プロジェクトの中で特に心に響いたのは、Project Water Light (プロジェクト ウォーターライト)水没した状態をイメージする屋外インスタレーションです。LEDや湿度などを活用して人々があたかも水面下にいる様な雰囲気を演出することで、海面上昇についての意識を高めるというプロジェクトです。
インスタレーションの映像は、ダーンさんの公式サイトから見ることができます。https://www.studioroosegaarde.net/project/waterlicht
今世界に山積するSDGsの様な課題を解決するには、革新的な科学技術が必須であることは間違いない一方、科学技術だけでは、人々の心に響くメッセージを伝えることはできません。キャシーさんやダーンさんの様に表現方法やメディアを工夫することで、全世界的に関心を換気する事が出来るのですね。
STEAM (Science, Technology, Engineering, Arts, and Math) 教育という教科横断型の学びを指す言葉が日本でも少しずつ認知されてきましたが、メディアアートや Youtube 映像の様な、テクノロジーを活用しながら心響くコミュニケーションを設計する能力は、今後ますます求められてきそうですね。
by Emi Takemura