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「ドラゴンクエスト」というロールプレイングゲームはこの記事を目にする世代の大多数は知っていると思う。人生はドラクエだという趣旨の話は折に触れて話題にもなる。そして、本書でも読みどころの最終章にドラクエを連想する内容があった。
”体力については、食事、移民、運動の潜在的影響に敏感だ。現代社会で働く人の大半がそうだが、私たちは生計を立てるために自分の知力を使うが、知力の一日のリズムについて驚くほど知らない(中略)考えを動かすことに集中する仕事の場合、自分の限られた認知力を最大にする方法について、私たちはほとんど知らない(引用)”
ドラクエで言えば、体力はHP(ヒットポイント)であり、 認知力(処理能力)はMP(マジックポイント)である。HPがゼロになれば、ゲームオーバーだが、MPがなくとも死ぬことはない。しかし、MPがなければ体力を回復させる魔法(ホイミ系)を使うことができない。そして、現代の実社会を生き抜く上で、より大切なのはHPではなく、MPだと思う。HPがゼロになってゲームオーバーになるなんてことは豊かな日本で不慮の事故や自然災害以外ではほとんどない。HPはゼロに近くならないようにすること、そしてゼロに近くなったときにどう自分を回復させるかがリアルな人生のミソである。
しかし、MP不足で、勉強や仕事がはかどらない、やる気がでない、鬱になる、低い生産性に留まる、なんてことは本当に日常的にある。MPをしっかりとコントロールすることが今こそ重要なのである。
そして、本書はドラクエで言うMP、特にその欠乏について解説した書籍だ。ここまでで、MPが大切なのは、そんなの当たり前じゃないか、と感じているかもしれない。しかし、本書を手に取れば、どういう状況のときに不足しやすく、MPが不足するとどんなトラブルが起きやすいか、逆にどんなメリットがあるかがわかる。また、不足したMPを回復させる方法については、驚くほど無知であることに気がつくだろう。
本書は受験勉強というイベント前に、お勧めしたい一冊である。なぜなら、本書に書かれていることを簡単に応用すれば、負荷の少ないかたちでお受験を乗り越えられるはずだからだ。また、口コミで評判や科学的に怪しい方法に惑わされたときにも、本書は役立つと思う。
自分自身を冷静に振り返ってみると、時間だけは平等だと自分に言い聞かせて、根性論に走ってきた負の歴史があるし、ときにそれを強い動機付けにして走ってきた。超速で駆け抜けた大学受験というイベントでは、MPを意識することがないまま、気づくとバーンアウト直前の燃え尽き症候群になっていた。
とはいえ、子ども自身が自分自身の処理能力をすでにメタ認知しているのであれば必要ないが、そんな優秀な子どもは一握りだろう。そして、大人も無意識的に処理能力の減衰を意識して行動を変えている人はそれなりにいると思うが、意識化して、人に教えられるレベルの人は多くはいないはずだ。だから、まずは本書を読んで、自分の処理能力に意識的になるところからはじめてみてはどうだろうか。効果的な子育てにも、ちょっとした役にたつかもしれない。
”処理能力は核となる資源である。子育てにも、研究にも、ジムに行くのにも、人間関係をうまくやっていくのにも使われる。考え方や選択に影響する、(引用)”
いきなり、ふだんは読まない本を読むことは、処理能力を大幅に奪う、という人には著者のTED動画を見ることをおすすめ!
動画を見て、ガッテン、膝を打ったならば、ぜひ書籍も購入してほしい。1ページ3円の投資で、長い人生の質が大幅に向上するかも知れないと思えば、安い買い物である。
著者プロフィール:
Naoki Yamamoto (山本尚毅)
1983年石川県根上町生まれ。2009年から仲間と会社(株式会社Granma)を創業、日本メーカーの途上国のネクストマーケット(BoP市場)進出を支援。その傍ら、展覧会(世界を変えるデザイン展・未来を変えるデザイン展)を企画・開催し、人の行動変容(Behaivor Change)に興味関心を高める。現在は学び領域の組織に身を移し
アセスメント・評価と未来の学びの研究開発及び商品企画を担当している。その他、HONZで書評を執筆中。 北海道大学農学部卒