「白馬インターナショナルスクール(HIS)の魅力とは?」シリーズの3回目です。1回目、2回目では、白馬インターナショナルスクール設立の背景や運営などについてお伝えしてきました。3回目では、HISが積極的に取り組まれている、「プロジェクト型学習」、「社会性と情動の学び」をはじめ、HISならではの強みについてご紹介します。
1)HISのプロジェクト型学習 (Project Based Learning、略してPBL)について
編集部:HISではプロジェクト型学習 と社会性並びに情動の学びを中心に学習を進めていらっしゃいますが、どのような取り組みをされていらっしゃいますか?
草本さん:基本的に午前中はPBLの時間となっており、テーマに沿って、様々な観点から多面的に学びを深めていきます。また、PBLの良さは、正しい答えがあるわけではなく、生徒達が学びの過程で沢山チャレンジをし、そして(心理的に安全な環境で)沢山失敗することで、そのプロセスを経て学ぶことができるところです。
そして、持続可能性をベースとしたPBLの実施をしていきたいと考えています。プロジェクトを通じて実際に地域に対してインパクトを生み出せることは、生徒にとって重要な経験になると考えており、その実現のために、先生達がカリキュラムを構築しています。実際に生徒たちが主体的にPBLを実施・実践していけることは生徒たちにとってもやりがいのある形だと思っています。
白馬インターナショナスクールには、PBLをすでに他校で数多く実践されてきた先生方が在籍しているため、次のタームへの流れも意識し、必要な知識やスキルを生徒たちにとってやりがいがある形で構築できるようにとカリキュラムを作っています。先生方は、生徒が1年間を通して何を学ぶかという大きな指針をまず策定し、その中で一人一人が今学ぶべき知識や学習、スキルなどのポイントをベースにPBLで実施していくという形を創っています。
編集部:見学をさせていただいた際に、「ラーニングパスポート」という生徒の資質やマインドセットの成長をトラッキングする評価制度を設けていらっしゃるお話も先生からお伺いしました。PBLが緻密かつ丁寧に、そしてフレキシブルに構築されているのが印象的でしたまた、具体的な内容も教えていただけたら嬉しいです。
草本さん:例えば、今ちょうど「愛」をテーマにPBLを実施しています。「愛」をテーマとして、脳神経科学、言語、アートなどをはじめ複数の観点からの知識・知見を養い、分析を行います。愛について感じた時、人の脳はどのようにそして脳の中のどの分野が反応するのか、また、愛をテーマにした文学や詩などを探求してみたり、アートの世界ではどのように表現されているのか。まず調べたり、学んだり学習します。その後、生徒たちがグループと個人で6週間の取り組みの後にプレゼンテーションを行います。プレゼンテーションと言っても、PCでパワポでと言う形ではなく、生徒たちが詩やアート作品など、アウトプットも一から主体的に考えていきます。
編集部:PBL経験豊かな先生方が多くいらっしゃるのでプロジェクトが充実していらっしゃいますね。また、HISでは、白馬という大自然に囲まれているからこそのアウトドア教育も充実されていらっしゃいますよね。
草本:スクールでは、年に5回キャンプを実施しています。白馬の自然環境を活かし、年度はアウトドアキャンプで始まり、アウトドアキャンプで終わります。アウトドアキャンプを通じて得られることは、白馬の大自然を存分に体験しながらアウトドアのスキル向上(例えば、地図とコンパスを生徒たちが自ら学びゴールまでたどり着くなど)だけではありません。
例えば、
・生徒が生徒同士の関係性づくりを学ぶ
・自分自身についての認識を深める
・環境に意識を向ける
といった意図をもった活動が計画されています。
長年アウトドア教育にとりくんできたベテランの先生が「多くの生徒は、アウトドア教育の意義や良さというのをかなり時間が経過してから感じることも多いのです。以前20年前に教えた生徒から、当時はキャンプが苦手だったけれど、今となってみると学校で最も思い出深い経験だったと感謝されたことがあります。」と仰っていました。アウトドアでの体験は、生徒の長い人生においてとても貴重な経験になります。
2)社会性と情動の学び (Social Emotional Learning 略してSEL)について
編集部:社会性と情動の学びの導入はいかがでしょうか?
草本先生:クリス校長が以前校長をしていたアメリカのミレニアム・スクールでは、思春期の子供たちがどのように精神的な成長段階を経て、また思春期特有の不安定さ、葛藤などを抱えながら徐々に社会と接点が広がり、自身の周囲の人たちとコミュニケーションをどう取っていくのか、また大人はその時期の子供たちをどうガイドしていくのかという点について、アメリカのスタンフォード大学などと共同研究をしながら実践されています。こう言った思春期の心身ともに成長する子ども達とどう接していくかについては、以前から先生たちはミレニアム・スクール時代のクリス校長から長期のトレーニングを受けてきました。
また、思春期特有の発達にも沿った、SELですが、適切に取り入れることで、生徒たちは周囲とのコミュニケーションの取り方や、感情のマネジメントなどが徐々にできるようになります。SELとはスキルで、実は教えることができ、学ぶことができるのです。子ども達が自分のことを知り、自分自身の心理的な成長と向き合うことで、より豊かに育っていけるように、SELを導入しています。
編集部:SELの実践としては、具体的にどのような形で導入されていらっしゃいますか?
草本さん:主に、「アドバイザリーグループ」です。アドバイザリーグループというのは、生徒10名に対して2人のアドバイザー(主にガイドの先生方)が担当します。その時間は、特にテーマは決まっておらず、生徒が少人数でなんでも話せる場になっています。ここでは心理的安全性が確保されており、生徒たちは日々成長の中での悩みや色々なことを相談することができます。自分が何者か?何が得意なのか?何がやりたいのか?なども人と話すことで気がつくことができたりします。これもアドバイザリーグループが信頼を元にできていて、自分の感じていることを話せる安心な場であるからです。
また、生徒が責任ある社会の一員となる準備をするために、「タウンホール」という生活全般についても改善したいという点があればそれを対話できる場があります。話し合いたい議題は、先生からではなく生徒からも数多く上がってきます。また、先生や生徒と言った上下関係はなく、フラットな形で話し合いができる場です。
生徒からは様々なアイディアが出てきて刺激を受けています。例えば、スクールで利用する通貨を創ろうという提案がありました。私もそれは良いアイデアだと思い、私や先生達は紙幣のデザインなどから発想していましたが、提案してくれたとある生徒はとてもプログラミングが得意で、バーチャルカレンシーを提案してくれました。私としてはとても画期的な提案で本当に印象的でした。そして、その生徒を中心にサーバーも新規に立てて、スクールにアプリで使えるバーチャルカレンシー(仮想通貨)を導入することになっています。
次回の4回目では、HISが積極的に取り入れている、地域との交流やHISとしての将来のビジョンをお届けします。
コントリビューター
島田 敦子 | Atsuko Shimada
教育関連企業、自動車メーカー、IT企業でのマーケティング職を経て、米系機関に勤務。現在はIT業界に関連したリサーチや、ビジネスコンサルなどに携わる。2004年頃からダイバーシティプロジェクトに参画したことをきっかけに、ワーキングマザーの取材やイベント活動などをプライベートで実施。妊娠・出産を機に次世代教育や、AI時代の教育に興味を持ち、さらに日本モンテッソーリ教育総合研究所にて0-3歳の教師養成通信教育講座を修了し資格取得。二児の母。 慶應義塾大学総合政策学部卒。