Future Edu Tokyo

View Original

人の役に立つ AI (人工知能) 普及のために出来ること:スタンフォード大学フェイフェイ・リー教授のメッセージ

人工知能による視覚と意味づけの性能向上を説明するリー氏

先週参加したイノベーティブ・ラーニング・カンファレンスでの講演の中から、特に気になった内容を紹介します。第一回は、成長の凄さに不安を感じる人も多い、AI (人工知能) に関するスタンフォード大学リー教授の講演からの気づきレポートです。

コンピューターによる視覚の研究分野を専門とするスタンフォード大学のリー教授による講演は、AI と人間が共生する未来について、非常に具体的な示唆のあるお話でした。視覚を活用した人工知能では、昨今癌の診断での精度の高さや、セキュリティでの人間の画像認識の精度の凄さといった方面で、様々な実践例が紹介され、「人間の役に立つ人工知能」という側面と、人間の脅威となりえる人工知能」の二つの側面が浮き彫りになってきています。リー教授のお話は、「人間の役に立つ人工知能」という存在を強化するために我々ができることは何かを考えさせられる内容でした。

リー教授によると、30年前には線を認知するのがやっとだった人工知能は、2012年に大きな進化を遂げ物体を認識することに成功し、2015年には人間の視認のエラー率を上回る精度を達成したそうです。2015年以来、グーグルなどの企業による人工知能の活用も急増しています。

視覚分野でもこれだけの成長を遂げている人工知能ですが、これからも進化が予想される中、コンピューターサイエンスの分野にはもはやとどまらない、経済、倫理、社会学など様々な学問分野からの視点が求められてくるようになりました。「人工知能は人間性を補完、進化させるものであり、代替するものではない」という考えのもと、スタンフォード大学に、Stanford Institute for Human-Centered AI (ヒューマンセンタードAIインスティテュート、略してHAI )が発足し、リー教授が共同ディレクターとして就任されたそうです。デザインの学際的学び舎として有名なスタンフォード d. スクール、の次は、人工知能を学際的に研究する HAI がスタンフォード大学で発足するのは納得の流れです。

同インスティテュートでは、経済学の教授が関わり未来の仕事についての研究や、AIと政府、AIと企業といった分野に200名の研究員が関わっているそうです。実際、リー教授は、カリフォルニア政府の人工知能の委員会のアドバイザーも勤めていらっしゃるそうでが、人間の役に立つ人工知能を広めていくために、政府を含む、多くのステイクホルダーとの対話や協働の重要性が増している点を強調されていました。

シリコンバレー企業の男女比率 (おそらく開発者の比率だと思われます)

また、人工知能の分野だけでなく、コンピューターサイエンスは全般的に男性が圧倒的に多い分野ですが、リー教授は現在の男女比率が不均衡な開発者や研究者の状況について警鐘を鳴らしていました。何故なら、人工知能をデザインするのは人間で、人間の偏見が偏った形で人工知能に反映されてしまうからだそうです。それは、文化的視点など、様々な見地から言えることで、例として、同じ5才児が手を洗っている写真を分析した時に、女の子とだと「料理を作っている」と人工知能が解釈し、男の子だと「水栓を修理しようとしている」とアルゴリズムが偏見を持った解釈した事例の紹介がありました。「センスメイキング」の筆者も、アルゴリズムによる偏見については設計者の考えの偏りが反映される事が指摘していましたが、「ゴミのデータからはゴミの結果しか出ない」というのはデータ分析の常なので、人工知能にも当てはまる訳ですね。

リー教授は、アルゴリズム設計者の多様性不足の課題を解決するために、現在11の国内大学と連携をして、#AI4ALL (全ての人に人工知能を)というNPOを立ち上げ、女子高校生に人工知能の知識や使い方を広めながら、関係人口の裾野を広げていらっしゃいます。同団体ではサマーキャンプを実施しており、すでに500名のプログラム卒業生がいるそうです。実際に、農村出身の女の子が、自宅の農業のための人工知能の使い方や、コミュニティへの啓蒙活動といった形で活躍しているそうです。

人工知能が人類の未来への脅威ではなく、役に立つ存在となるためには、女性の参加も含めた多様な人達が人工知能に関連する研究に関わることが必須だと痛感したお話でした。学際分野という事で考えると、人工知能のテーマこそ、プロジェクト型学習で取り上げるには素晴らしいトピックですね。分からないと目を背けるのではなく、関われる視点から教員も、保護者も、子どもたちもみんなが意識して考えていくべきテーマです。日本においても学際的な人工知能の研究が進んでいると思いますが、当事者世代に突入していく高校生や大学生でも、プログラミングや人工生命に関心のある一部の人たちだけではなく、幅の広い関係人口が増える事を期待したいです。

by Emi Takemura