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〜海賊になろう!〜 日野田直彦先生『なぜ「偏差値50の公立高校」が世界のトップ大学から注目されるようになったのか!?』出版記念講演&パネルディスカッションレポート

左から、日野田校長、村上氏、山本氏

このブログでもお知らせしたとおり、海外トップ大学への進学実績日本一など、数々の実績を残された大阪府箕面高校前校長、日野田直彦先生の著書『なぜ「偏差値50の公立高校」が世界のトップ大学から注目されるようになったのか!?』の刊行を記念して、9月27日に講演会が開催され、パネルディスカッションではゲストの村上憲郎氏、山本秀樹氏とともに、世界に貢献できる人材を育成するための教育のあり方について語り合いました。FutureEdu Tokyoから共同創設者の竹村がモデレーターとして参加しました。

■第一部 日野田直彦先生講演

【同志社国際中高で過ごした日々】 

日野田「こんにちは。今日は多くの方にお集まりいただきありがとうございます。まずは自分がどのような人間か、自己紹介がわりにこれまでの道筋を語らせていただこうと思います。僕はタイで育ち、帰国子女として、当時帰国子女受け入れ第一期校として建学された同志社国際中学・高校に入りました。3分の1は帰国子女、3分の1は現地で日本人学校に行っていたような子で、残りの3分の1は日本で育った日本人。バックグラウンドも育ってきた文化も異なる集団の集まりで、校則がない学校でした。

そこでの授業は、興味や課題意識のある領域に深掘りをするような内容で、例えば個人的な経験では、日本史特論という授業は半年間 、僕は「鬼」と「製鉄民」と「柳田國男」しか読まないというような(笑)学生生活を送っていました。論文書きとネゴシエーション・プレゼンテーションは得意だが、穴埋め問題のようなペーパーテストに向かないような、本質的な学びだったと振り返って思います。」

【最初の就職先、学習塾での衝撃】

日野田校長

 「それから教育現場で働くことを志したのは、どちらかというと教育への興味ありきというよりも、「あえて不得意なことをやる」という逆張りの発想から。特に、自分自身は10歳以降、日本の一般的な教育を受けたことがなく、一般的な受験もしたこともなかったので、興味を持ち関西圏で有名な受験塾に就職しました。

まず、生徒たちが何時間も黙々と勉強している光景を初めて見て、非常に驚愕しました。発言せず黙々と机に向かう生徒が優秀とされていて。そこでは、「第二次大戦はなぜ起こったのか?」という質問に対して「真珠湾攻撃」と皆そろって答えるよう感じ。経緯や背景を聞いたのに、問題に対し答えになっていない……。Whyに対して思考停止でWhatで答えている。教育に疑問を抱くきっかけになりました。」

 

【奈良学園登美ヶ丘中・高の立ち上げから大阪府立箕面高校の校長へ】

 

「奈良学園登美ヶ丘中学・高校はちょうど立ち上げの公募があり応募しました。海外進学させてくれと言われて行ったんですけど、アメリカでは一般的な、自分の得意なことや好きなことで自分を表現するアッセンブリータイムという時間を授業中に設けたところ「授業中に何遊んでんねん?」って他の先生に怒られたりして(笑)。ハーバードでもなんでも黙って授業聞いているだけでは絶対無理。だけど日本の学校の国際科とかは、グローバルとかを知らない人が勝手に思い描いて勝手にやっていることが多いですね。

 

で、本当は貧富の格差を是正することに興味があり、米国の公募型公立校であるチャータースクール(公設民営学校)のようなことをやりたかった。そんな思いもあり、大阪府の公募等校長制度に応募して。今や大阪の中学生はピーク時の46万人(1986年)から、22万人(2018年)まで減少しています。そういう意味で大阪は課題先進地域な訳でそこで何かできないかと。しかし地道に取り組みを続けていたら海外進学まで結果が付いてきた。現在、他の学校からも「海外進学はどうすれば良いか?」と問い合わせが2日に1度来ています。でも結局どこどこに何人出したか、偏差値はどうなったかという部分にフォーカスされがちなのは残念ですね。」

 

【教育改革、今後の抱負】

 

「今改革に乗り出した武蔵野大学中学校・高等学校は3年以内にハーバードなどの海外トップ大学への合格者を出すような日本有数の海外進学校になっていると思う。見ていると賢い子がいるんですよ。日本での偏差値は拘らないです。日本で普通に出来るっていうのは世界で見たら結構できてる。普通なんてダメだって自尊心を損なう教育は意味がないと思います。

 

その上で

・英語を諦めないマインドを身につける優れた英語教育

・文理を超えた学び

・様々な社会課題を自分のこととして他人事にしない「世界市民」を目指す

そういったことを軸に新しい学校創りを考えています。

  

教育の問題を俯瞰してみると、日本の将来推計GDPの凋落傾向を鑑みた時に、子供に将来自由な選択肢を与えることが現役世代の使命ではないかと思ったんです。実際、ナイジェリアのEコマース運営会社である「JUMIA」のような企業があと 数年で楽天の時価総額を越えそう、というようなことが今すでに起こっている。他方、そういった事実が日本国内であまりに知られていないことに自身として危機感を持っており、教育においても、前時代的な「労働者を育てる」という発想から脱却できていないと感じています。世界が学校という枠組みをどんどん変えて行っている中、日本ではどうしましょう?ということなんですが、テーマは ”Who are you?” 。お前は何者なんだ?問題をどう解決しようとしているのか、どう世界に貢献できるのか?に答えられる子を育てたいと思っています。 

僕個人は、「新しい学校」のプロトタイプ創出や、海外進学ノウハウのフランチャイズ化にも興味がありますね。

海賊船の「海賊になろう」という気持ちで、変化が激しい世の中だから失敗してもはい次!という感じで。トライ&エラーを繰り返していけば良いと思っています。」

■第二部パネルディスカッション

左から:日野田校長、村上氏、山本氏、竹村

スピーカー:

日野田 直彦校長 (武蔵野大学中学校・高等学校(現 武蔵野女子学院中高)、元箕面高校校長)

村上 憲郎氏(元 Google 米国本社副社長兼 Google Japan 代表取締役社長)

山本 秀樹氏(元ミネルバ大学日本連絡事務所長)

 モデレーター: 竹村 詠美 (FutureEdu Tokyo 共同創設者)

 

竹村:「村上さん、山本さんは、日野田先生とはどのようにしてお知り合いになられたんですか?」

村上:「今後の日本の教育をどうすれば良いのか?という課題認識は常々持っていまして。そんな中、中学生、高校生の様々なコンペティションの審査員を引き受けることが多く、箕面高校の生徒ならびに先生との接点も出来、それが日野田先生とお会いするきっかけとなりました。海外進学の推薦状を引き受けたり、箕面高校に出向いて講演などもいたしました。」

 

山本氏

山本:「ミネルバ大学の日本代表を2年務めていたのですが、数年前にミネルバ大学の共同講演を実施した際に、非常に活発に目をキラキラして聞いて、積極的に発言する子供達がいた。それが箕面高校の生徒で大変感銘を受けました。実際に箕面高校でも英語で授業を行う中で、最初は面食らう生徒たちも段々面白がってくれるようになって。その結果、箕面高校は日本で非バカロレア校として初めてミネルバ大学に合格者を出したんですよね。英語できるできないではなく、深く思考し行動できことが大事だと思いました。」

 

竹村:「では具体的なお話を。皆さん、英語が話せる話せないは本質的なことではないと仰りますが、村上さん、実際世界のトップ企業はどのような基準で人材を選考しているのですか?」

 

村上:「Googleがどうしてるかということはあくまで数ある正解のひとつですが、英語は本質的でないとしても「されど英語」というところはある。成績についても「されど成績」というところもある。Googleも過去に、世界の大学の採用リストを作っていて、ランキング上一定の基準に満たない大学を足切りをしたり、ハーバード大学であっても成績 (Grade Point Avarage、GPAと略称して呼ばれてる) が3.5ポイント以下の人材は面接に応じないなど、点数やランキングで採用基準を設けた過去があった。学歴や学校の成績と仕事上のパフォーマンスに必ずしも相関関係があるわけではないという反省から、今また別の評価基準で採用し始めているようです。」

 

 

竹村:「日野田先生、箕面高校での学校改革、一筋縄には行かなかったと思いますが、どのように挑みましたか?」

 

日野田:「それはもういきなり全部変えるのは無理ですし、保護者の方、教職員の方は、なんだこの人と思っていらっしゃるでしょうから、平身低頭・五体投地で Step by Step でやっていく、ということを信条としていました(笑)。着任時は、教員同士のコミュニケーションがよくなかったこともあり、オープンマインドになることに尽力しました。職員室や会議をオープンにしたり。

子供の方が変化が早いですよ。分からない時は分からないと言っていいと伝えるとすぐに変化があったし、好きなことを言えるような環境づくりを子供側から作っていた。日本の学校にありがちな、先生が期待する答えをするのが良いことではないことを教えた。小さな火を持っている子は沢山いますからそれを育てていくというか。」

 

竹村:「親御さんのバックラッシュも怖いので受験においてもしっかり対策するというのでバランスを保っていらっしゃったとも伺いました」

 

日野田:「PTAと仲良かったのがポイントだと思う。保護者が悩んでいることを常に聞いていましたね。私も悩み事を保護者の皆様に相談していました。生徒達が校長室にコーヒーメーカーを置いて、喫茶店と呼んで出入りしているような校長室だった。オープンな学校づくりとは、機会提供であり問題解決の場を提供すること。本当は職員会議も経営会議も生徒や保護者にも来てもらいたいと思っていました。実際に、若い高校生の方が我々大人よりもずっと進んでいますよね。流石にそれは実現しませんでしたが。」

竹村:「子供達が好きなことを見つけるために、大人としてどんなことができると思いますか?」

山本:「”How would you like to be remembered?”  (どう生きた人として記憶されたいか?)というのがキーワードかなと。この問いを一人でしっかりと邪魔されずに考えてみてほしい。親御さんは子供達と一緒に考えてみてはどうでしょうか。そして子供が決めたことを絶対的に肯定して機会をサポートしてあげてほしい。学校内のコミュニティにのみならず、学校外のコミュニティも重要なんですが、それを見つけるためには、絶対的な味方がいると強いんです。親が肯定してくれる、もしくは学校がサポートしてくれるなど、学びの火を消さないようにしてくれる存在が大事ですね。現実はミネルバ大学に行きたいような子にも、課外活動をやろうものなら「余計なことをするな」という大人のプレッシャーも強いようですが。進学にしても然りで、手段が目的化している。」

村上氏

村上:「そういえば課外活動に取り込んでいる子達を評価する方法がないなと、自分も色々なコンペの審査員をしていて気づくことがありますね。先生が、『この子がこの活動をしている一方、同級生は予備校で勉強しているのに……』とか言っちゃって(苦笑)。教育が大変革の只中にいますから、親御さんも先生も大変だろうなとは感じます。」

 

日野田:「ペーパーテストの点数で子供をしばき上げる(笑)ようなことは、子供の人数が多かった時代ならいざ知らず、子供[NH15] の人数がここまで減ってしまった現代社会では無意味。ひとつで良いからその子の特性を見つけて、応援してあげれば勝手に伸びていきますよ。」

 

 

竹村:「日本が、世界に誇れる人材を輩出するために変わらなければいけないこととはなんでしょうか。」


村上:「改革だとありとあらゆることが言われているが、中途半端ですね(笑)。明治維新150周年だが、もう一度明治維新のような大改革をやり直さなければならない。日本がどうとかではなく、地球人だというように、国を開かないともうダメなんじゃないかと(笑)。」


竹村:「最後に子供達とその親御さんにアドバイスできることがあれば教えてください。」


村上:「親御さんがもうお気づきになられていることをご自身で確認した上で『自分がどう生きたいか?』が一番大切だということを伝えれば良い。それを自分自身でも認知しながら子供に接することが大事。」


山本:「AIとか変化が早いとか言われていますが、変化に対応する側ではなく、変化を作る側になれば良いんです。人間の資質として大事になってくるのはレディリエンス、折れない心を持つことが大事。そのためには利害関係のない人間関係が必要。今はどこにいても一人でも学ぶことが可能になっているからこそ、学校はその点にこそ価値をみいだされるのではないかと。」

日野田:「世の中をどう見るかという話に帰結するんじゃないかと。例えば、社会システムが崩壊して、世界の大国と戦って、頭の中で、これは戦国時代みたいなもんだなって仮定したりして。「グローバル」と一口で言っても、世界は想像しているよりももっと怖いですからね。でもそれを楽しんで、元々の野生に戻れば良いと思う。自分の認識を戦国時代に戻して野に放たれた気分で楽しめば良いと思う。100人の味方をつけて戦ってみる。動いてみるのが一番かな、と思っている。」

 竹村:「ありがとうございました。」

 

イベントを終えて、竹村の感想

 日野田先生の海賊船に乗った気分で進行をさせていただいたパネルディスカッションは、ここには書けない話も色々ありましたが、我々が普段から信条としている、「子供一人一人の興味関心を伸ばし、「自分軸のある子供たち」を育てることで、世界の戦いの中でも生きる力を身につける」という環境を、学校および学外でどれだけ提供できるかが、これからの日本の国力にも繋がっていくのではと痛感するお話でした。

 村上氏がご自身のお子様の経験も含めておっしゃられていた、「されど英語」、「されど成績」、というお言葉は、理想と現実の中で、子供たちが自分たちの得意分野を極める一方、ある程度の学校での評価も納めなくてはトップ大学の進学は難しいという現実論の中で、個々の生徒たちが、自分として納得のいくバランスはどの辺りということに舵を切れる判断力を小さい時から育てることが大切だと感じました。

 そして、山本氏が共有された、ケンブリッジ大学での入試問題にも出題される ”How would you like to be remembered?”  (どう生きた人として記憶されたいか?)という問いに答えられる子供をどう育てるか。どんどんその答えは変わっていくものだと思いますが、若いうちに自分で考えて判断する経験を積むことで、常にその時々の答えが持てる子供達を育てていきたいものですね。

【登壇者著書紹介】

なぜ「偏差値50の公立高校」が世界のトップ大学から注目されるようになったのか

日野田直彦著

世界のエリートが今一番入りたい大学ミネルバ  

山本 秀樹 著

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