SXSWedu レポート1:プロジェクト型学習を成功に導くには?
みなさん、毎年音楽の街、テキサス州オースティンで行なわれている SXSW (サウスバイサウスウェスト)というカンファレンスはご存知でしょうか?も80年代に音楽フェスティバルとして始まったこのイベントは、年々成長を遂げ、今は映画、インタラクティブ、ゲームに加え、エコや教育といった個別のテーマでのカンファレンスも開催され、毎年400億近くの経済効果を産んでいると言われている米国でも有数のイベントです。
6年前に始まった教育をテーマとした、SXSWedu (サウスバイサウスウェスト イーディーユー、eduはEducation の略称)も徐々に規模が大きくなり、今年も3月5日から8日までの4日間、7500名を超える(2016年実績)教育者、教育テクノロジーやサービスの提供者、研究者、メディア、NGOなどが集まり開催されました。参加者の7割以上が教える経験があり、1/3 大学、2/3が高校生以下の教育分野に興味があり、4割近くが教育者、および教育機関の関係者というだけでも規模感に驚きますが、参加者の9割がデザイン思考の実践者であり、7割がSTEMよりSTEAMをサポートし、86%が学びのスペースがイノベーションに影響を及ぼし、生徒一人一人の発達段階に応じた学びの提供が重要だと思っているという、正に時代の先をいく参加者にあふれたカンファレンスでした(データは、昨年度参加者アンケートより)。
同時にセミナーや展示会、デモ、メンタリングなど、3つの建物の数十カ所以上で様々なイベントがあるため、参加者によって得るものや学びは異なると思いますが、私の参加したセッションの中から学んだことを本日から数回にわたりレポートしていきます。
第一回の今日は、プロジェクト型学習(PBL: Project Based Learning)がテーマです。
ロボットやAIといった超高速演算能力のメリットを享受しながらも、人間ならではの価値を最大限発揮していくこれからの時代では、今までの記憶型、マニュアル型ではない教育が求められています。これからの変化の時代をしなやかに生きる好奇心、クリエイティビティ、論理的思考能力、コミュニケーション、コラボレーション能力、諦めない力といった非認知能力の育成や、現在アメリカでも人材不足が叫ばれているSTEM・STEAM教育の導入が、読み書き計算、社会や理科といった基本知識の習得にプラスして求められていることはご存知の方も多いと思います。
ただ、実際に学校現場を改革し21世紀教育をどう導入していくか、という点については様々な試行錯誤がされており、まだまだアメリカでも全国的に浸透をしているとは言えない状況のようです。
予算、リーダー不在、導入の難しさなど理由は様々あるようですが、特に貧困地域や地方での実現が厳しく、教育改革を支援する様々な団体が、立ち上がり、成果を見せはじめています。実現のアプローチは様々ありますが、Most Likely to Succeed の舞台であるHigh Tech Highでも取り入れられているプロジェクト型教育 (Project Based Learning) は、非認知能力を育むだけではなく、生徒の主体的な学びへの関わりを高めるために効果が出ているという話が共有されていました。今日は、18ヶ月前にプロジェクト型学習を導入した中学校の事例を紹介します。
中学での社会におけるプロジェクト型教育の実践
子供が社会に出た時に知っておくべきなのに、大人も理解度が低いトピックとして歴史上の重要な出来事や国や地方の政治制度があります。この中学では1年半前から、テストに元々割り当てられていた時間を転用して、社会のプロジェクト型学習の導入に成功しました。先生方も最初は手探り状態だったそうですが、生徒の反応も見ながら、失敗もありつつもカリキュラムを1年かけてブラッシュアップしてかれたのだそうです。
例えば国や植民地のテーマでのプロジェクト学習では、学校の一部にブルーシートを敷いて国土の概念を表し、チームが国に分かれてその国の憲法を策定し大統領を選定したり、他国との交渉や契約、土地を取り合うといった活動を取り入れ、学校全体を活用して学びを身体で体得しています。また先生がサプライズ動画を共有し、出来事の進化を説明して次のステップのヒントをだし、スリルのある進行をしたそうです。ゲーム感覚を取り入れてロールプレイをしながら身体で学ぶ学習を通年で続けると、一年で生徒達の関心や取り組みに大きな変化が出たそうです。
プロジェクト学習は、形式の導入は容易ですが、効果を出せるように持ってには様々な工夫や体制的な課題があります。上記の中学の場合は、先生二人と、管理職の先生3人がタッグを組み、失敗も楽しみながら改善していこうという共通した認識で始めたことが、次年度の継続にもつながる成果となったようです。実際の導入においては、3つのステップで実施のだとか。
ステップ1:学校の多忙なスケジュールの中で、どこの時間を活用できるかをまず決定
ステップ2:何のテーマで実施するかを確定。例えば政府というテーマでは、実際に生徒に何を体得してもらいたいかについてじっくりと議論を重ねたそうです。
ステップ3:知識と技能のバランス
指導要領をカバーする領域での知識と、問題解決能力やクリエイティビティといった非認知能力の何にフォーカスするかを決め、カリキュラムデザインに反映
話を聞いて関心したのが、先生方も楽しみながら、多少の失敗を恐れず、生徒の反応で逐次内容も見直し、改訂しながらカリキュラムをどんどん進化されていったという点です。先生方がエンパワーされ、クリエイティビティを発揮する機会があると、こんなに楽しい授業が出来るという一つの例ですね。
一方、プロジェクト型教育についてのカンファレンスも実施している Buck Institute の Brandon Wiley 氏率いるパネルディスカッションでは、より多くの学校での導入の例を踏まえたチャレンジについて話し合いがされていました。
例えば、学びの習得をどのように表現するのか(地域コミュニティに開かれた発表会は一つの方法)、成果を評価者のバイアスを避けながらどうやって個別評価に落とし込むのか、特に地方におけるリソース不足(資金やローカルコミュニティの脆弱さ)をどう解決するか、グループでの平等な参加をどう促すか、学校がコミットをして、全学生が発達段階に応じて継続してプロジェクト型学習が出来る環境を整える難しさ、など様々な点が指摘されていました。
また、パネルで出ていたプロジェクト型教育のメリットと難しさに、「いかに正解のないプロジェクト活動が、生徒の能動的で貪欲な学びへの意欲をひきだせるか?」という問いがありました。どの程度のヒントやガイダンスを出しながら進めていくのか最終的に学校としては成績にも落とし来なくてはいけないという制約はありながらも、教科を横断してタッグを組んむ事で先生方がより深く体験型の学びを提供することを、継続していけば、数年後にはより自ら学ぶ力が強い子供達がどんどん出てくることでしょう。
「プロジェクト型学習を始めるのは簡単だけど、狙った成果を出すのは難しい」という発言もありましたが、冒頭の中学校の例のように、子供達を巻き込みながら、多少の失敗は恐れずにできるところから取り入れていくのが大切なのでしょうね。まなびのポイントや結論があらかじめかっちり決まっている予定調和的なプロジェクトではなく、子供達が失敗から自分たちなりのアウトプットを出していく活動が、日本の学習現場でも増えてほしいものです。